砂漠の楽士6
ニーモがムカデを避けながら走り、左に迂回して元のルートへ戻る時に、ミクがちらりとラーンスを見ると腹を刺したもののラーンスが撥ね飛ばされ、砂に転がっていた。
「ラーンス!」
弦に指を這わせながら叫ぶ。
力を…ラーンスに力を!
ラーンスが逃げ切れず思わずといったように、左手を伸ばしている。
「危なっ…え…」
ラーンスの掌に光が集まりだし、一気にムカデの顔目掛けて光弾が打ち出された。
ムカデがもんどり転がりのたうち回るが、まだ動きが止まったわけではない。
「ニーモ、ラーンスを拾お!」
ニモがラーンスを横目で見ながら、ニーモに叫ぶ。
ラーンスは暴れるムカデの手に当たり肩から血を流していて、ミクは必死で踏ん張り曲を弾いた。
「当たり前だ!ピコ掴まれ」
「うん」
ニーモの動きも俊敏になり、モフルーにもミクのバイオリンは作用しているのか、先程までより早い動きでラーンスに近寄ると、
「ラーンス!掴まって!」
と、馬鞭を差し出しラーンスが傷ついた腕で掴んだのを見るや、ピコが短く見える小さな手で一本釣りしたのだ。
「いかん、来るぞ!」
御者席で剣を閉まったラーンスが歯を食い縛り、両手を伸ばして広げそのままパン…と叩き、光を集める。
「光捕縛」
太陽に煌めくロープのような光がムカデに絡み付き、ムカデを締め上げた。
「そのままムカデを伏せつけろ」
ニーモがその隙に安全なルートへ戻り始め、ミクがほっ…とバイオリンの弦から手を放した時だ。
「うそ…だろ?力が…」
音が鳴り終わるやいなや光のロープが消え、ラーンスが声を上げる。
拘束を解かれた砂漠ムカデが、砂を這うようにうねりながらニーモの後を追いかけてきた。
「ニーモ!早く早く!ルートへ!」
安全ルートにはムカデ避けの堅い岩盤になっていて、ムカデが襲ってこない。
「荷物を捨てるか!」
「捨てないで!大切な預かりものなの!」
「しかしっ…」
ムカデが低い態勢から身体を上げ、砂橇に襲いかかろうとする瞬間、ラーンスがミクの身体に覆い被さるが、ミクは隙間から白い影を見た。
「ガアアアアア…」
真っ赤な砂漠ムカデを襲う白い…巨大な…。
「お…狼…」
鋭い牙で砂漠ムカデを二つに咬み切ると吐き出して、
「不味い…」
と純白の狼が唸る。
「あ、レイモンド殿下!」
ピコがひょこんと立ち上がり頭を下げるが、白い巨大な狼は荷台に目をやって来た。
綺麗な青い瞳を細めると、
「ブルーラグーンの人だね。二人は僕の背に乗るといい。少しでも軽くしよう。ニーモ、大丈夫か?」
ニーモがため息のように嘶き、
「正直…助かります、殿下。ダイナナへ向かっています」
と苦笑いする。
「そのようだ。二人とも僕の背に乗れるかい?」
純白の狼が砂地に伏せて、首を伸ばす。