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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十六章 砂漠の楽士
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砂漠の楽士5

 真っ赤な砂漠ムカデは滑るようにさらさらの砂を掻き分け、ニーモが走る速度よりも速く向かってくる。


「右は…右はダメだよ!砂漠ムカデの巣がある!」


「しかし…追い込まれる!」


 巨大なムカデがニーモの前に立ち上がり、完全にの行く手を塞いだ。


「俺が出る!」


 ラーンスが立ち上がり剣に手を掛けるが、ピコが叫ぶ。


「ダメ。砂はさらさらで足をとられるし、ここは砂漠ムカデの巣なんだ」


「じゃあ、どうすんだよ!」


 ミクはバイオリンを抱き上げたままカタカタと震えていた。


 じりじりとムカデが迫ってきて、ラーンスが剣を抜き、


「それでも、俺が出る」


と御者台に足を掛ける。


「ダメだよ、足場が…」


 ピコの制止を聞かず、


「悪いのはわかってる。でも、お前ら剣を持たないものを守るのが、騎士だ」


と笑った。


「…ブルーラグーンの騎士、ギリギリまでムカデに寄るから飛び出せ」


 ニーモが毛深い前足で砂を掻き分け、嘶き息を吐く。


「楽士様は柱を掴んで!」


 何か…ラーンスのためになにか…なにか出来ないか…。


 つい最近まで日本の普通の高校生だったミクに、一体何ができると言うのか。


 でもやれることは…馬鹿馬鹿しいが…ひとつだけ。


「楽士様、何を!」


 ミクは荷物の中で立ち上がりバイオリンケースを開くと、肩に構える。


「楽士様!」


「ピコは前を見てて!」


 ミクのバイオリンの音色でラーンスの気持ちが落ちはついたのなら、気持ちを鼓舞し力付ける曲を弾けば…力になるかもしれない。


「震えるな、僕の指!」


 目の前の信じられないほど大きなムカデが、たくさんの腕をくねらせ、牙をカチカチ言わせているのに向き合えば死ぬに決まっているのに、ラーンスは飛び出す態勢で、


「脇をすり抜けてそのまま走れよ、ニーモ!」


と叫んでいた。


 ムカデを殺せなくても、囮になるつもりだ。


「行くぞ、騎士よ」


「おうよ!」


 ニーモが怒声を上げながらムカデに向かっていき、ムカデの腹前で右に曲がる。


 グンッ…と砂橇を引っ張り、


「うおおおおっ!」


その反動ラーンスは飛び出しつつ剣でムカデの腹を刺した。


 揺れる砂橇の中で両足に力をいれ、ミクはバイオリンを弾く。



 威風堂々



 マーチングバンドでもよく使用されるありふれたエルガーの曲だが、力強いバイオリンに押されて紡ぎ出される音が大気を揺らした。

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