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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十六章 砂漠の楽士
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砂漠の楽士4

「胎教にいいだろー。俺のいらいらもすっ飛んだ、ミクの音だぜ?」


 胎教…?


 ミクがピコを見るとピコが髭をくしくしと両手でこすり、そのあと慌てて手綱をとる。


「こども…いるの?」


「あ、はい。楽士様。まだタマゴだけど、ここに」


 ピコが胸のところを押さえた。


「タマゴ?胸に?」


「うん。ニーモと番いになってしばらくたつけど、なかなか孵らないの。ここに留まったままずうっと…」


「胸に…赤ちゃん…」


 お腹ではなくて、胸に赤ん坊が宿るというのか。


 そもそも、ロバとジャンガリアンハムスターが結婚するとか、理科の時間でも習ったが、種としてあり得ない。


 ミクが指だけ動かしながら思わず、ピコとニーモを見比べでしまうと、


「あー、そうだよ。やっぱ、お前辺境人なんだな。何も知らないし。気持ちのタマゴ。西では子はタマゴで生まれるんだぜ。クサカが話してくれた。けど、俺も初めて見る」


とラーンスがにやにやと告げる。


「クサカ…」


 変な名前だ。


「ああ、クサカは辺境人でさあ。楽園で出るまで……いいか、死んだやつだし」


とラーンスは言葉を濁す。


「辺境人?僕の他にも…。でも、死んじゃったんだ…」


「うん…じじいだったし…」


 辺境人の名前は二人。


 一人は重吾。


 一人はクサカ。


 老人で死んでしまって…。 


 ガーランド王国には辺境人用の牢があって、ミクは半年近くそこで過ごしていた。


 保護されていたと思っていたが、拘束されていたのではないだろうか。


 ミクはバイオリンを弾くのを止めた。


「ん?どうした」


 キラキラヒカルーと陽気にピコは音程を外しながらまだ唄っていたが、ミクはバイオリンをケースにしまうと押し黙ってしまう。


 保護…していた?


 でも、あれは牢だった。


 何のために?


 ピコが手綱を引いて、ニーモを止めさせた。


「ピコ、どうした?」


 ひくひくと長い髭を揺らし、ピコが叫んだ。


「ん、なんか来るよ。楽士様、騎士様、伏せて!」


 ミクがバイオリンを抱き抱えラーンスと荷物の間に伏せると、砂がざあっ…と音を立てて舞い上がり、太陽が隠れて影ができる。


「砂漠ムカデか!ピコ、迂回するぞ。ルートを探れ!」


「うん!」


 後退が出来ない砂橇は横にスライドし、ニーモが早足で駆け始めた。  

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