砂漠の楽士3
想いを馳せていると、
「楽士様~ブルーラグーンで人気のあれ、聞きたいなあ~」
とピコが手綱を持ちながら後ろを振り向いた。
「え?」
ピコがミクの手元をちらちらと見ては、
「それ、それ…音の出る…」
「バイオリン?」
「そう、バイオリン!ふんふんふーんってやつ」
砂橇とはいえ移動している中で弾く…?
サンドを食べながらミクは戸惑ったが、ラーンスが朝御飯のサンドを食べ終わり、
「いーね。俺も聞きたい」
と無責任にも笑う。
「うまく弾けないよ…」
「縁に座って弾けばいいよ。落っこちないように見ててやるって」
ラーンスが立ち上がり場所を開けて荷物をずらすと、ミクが砂橇の縁に座る場所を作ってくれ、ミクはサンドの残りをラーンスに渡した。
「とりあえず…頑張ってみる」
「そうしろよ、な」
ラーンスが意味深にピコに頷くのがわからなかったが、ミクはバイオリンをそっとケースから出す。
「ちょっと弾かせてね」
ミクのバイオリンはまるで意思を持つように、心柱が鳴るのだ。
ミクは股を開いてポジションを作ると、顎にバイオリンをあてがい弓を引いた。
きらきら星…本来はハ長調k265…モーツアルトが、フランス民謡を編曲したものであり、ミクたち辺境人は、子ども唱歌『きらきら星』として普通に口ずさむ。
「すげえ…」
ラーンスがバイオリンの指さばきに驚き、ピコは合わせて
「ふんふんふーん」
と嬉しそうに鼻唄を唄っていたから、ミクは少しだけ付け加えた。
「辺境には合わせた歌があるんだ」
「楽士様、歌ですか?」
「うん、歌は下手だけど…」
ミクは弾きながら、
「きらきらひかる おそらのほしよ
またたきしては みんなをみてる
きらきらひかる おそらのほしよ」
と、辺境の言葉で唄う。
いつか…辺境人で働いているジューゴに届くと良いなと想いながら…。
「キラキラヒカルー…胸がほっこりする。ニーモ、僕たちのタマゴ、この唄好きみたいー」
ピコが胸元を押さえて身体を揺らしながら言うと、
「俺も好きだな。楽士様、なんという音の集まりだ?」
とニーモが前を向きながら歩き続けて話してきた。
「あ、『きらきら星』です」
ミクが言うと、ニーモがもがもがと笑うような声で告げる。
「ピコ、生まれる子の名は『キラキラ』にしよう」
「あ、いーねー」
ピコがふわふわ胸の触って髭を揺らした。