砂漠の楽士2
改稿済
目の前の巨大なジャンガリアンハムスターは、なるほどミクよりは短いが同じ青い色のボレロを着ており、
「楽士様と同じだ。うれしいなあ。あ、僕、ピコ。砂ロバのニーモと砂漠の運び屋をして、ニーモとは番いなんだよ」
と無邪気に笑う。
「砂ロバの…ニーモ…番い……夫婦?」
ミクはそこにいるほっこりした顔のロバなんだけど、北海道の引馬…輓曳馬のような世紀末覇者が乗りこなしている風の漆黒の巨大なロバが、
「辺境のお方、ごきげんよう。ピコ、そろそろ出るぞ」
ともごもごと口を動かした。
「あ、はーい。乗って乗って」
大量の荷物の中に座れる場所を作ってもらうと、あとは砂漠橇を引いていくニーモに従うしかない。
「じゃーな、イーズ。夜には帰るなー」
朝のお弁当を用意してもらい朝日が上がる頃に出発をしたが、シャアはヴォールフ族長との対談のため、長老と話し合いを続けていて、ここ最近は部屋にも帰ってこなくて、ミクを心配したラーンスがヴェスパ行きを進言してくれたらしいのだ。
「大丈夫?暑くなるから、幌かけるね」
太陽が登り始めじりじりと暑くなり、ピコが鉤棒で布を張り出し屋根をつける。
「ピコも幌に入れ。今日の砂は躾がいい。俺一人でも行ける」
「えー、大丈夫?」
「大丈夫だ。たまごに障る」
「はいはーい」
二人の獣のやりとりに、ミクはただひたすら驚いていて、そのミクにラーンスがにやにやとしていた。
「なに?」
「ほんっと、ミクって見た目こっちのヒトなんだけど、辺境人なんだなあって。モフルーに驚くなんてさ」
ミクはどう答えていいか分からず黙ってしまうと、
「言いたいこと言えばいいだろー?ミクってなんか壁作るよな?なんでだよ」
壁…。
ミクはどきりとした。
「え…そんなこと…」
「あるって!なんか、いらいらすんだよな」
高校に入学してから、言いたいことは言えなかった。
いや…中学の時から、そうだった。
バイオリンの習い事を優先にするために、中学の部活も文化部にかえた。
楽譜が読めるしピアノも弾けるから、吹奏楽に誘われたが、コンクールのための練習や発表会などでミクは諦めて、帰宅部に近い部活を選び担任にも嫌みを言われたが、なにも言い返せなかった。
バイオリンを続けたくて高校を選択して、そのクラスでは外様になるミクは、彼女たちのよく分からないプライドを逆なでしたのかもしれないが、いまだに分からないのだ。
だからか、ミクは本来の内気さにさらに輪をかけ、自分の意見や意思を出せずにいた。
「あ…」
トラウマのようなその感覚に戸惑っているとラーンスが、
「まあ、いっか。俺がしばらく鍛えてやるよ。あ、またさ、辺境人にも会わせてやる。結構知り合いいるんだぜ?」
「辺境人…そんなにいるの?」
「変わり種は、重吾って言う奴だけど、会わせてやるって。驚くぜ、きっと」
辺境人…日本人ならば…日本語が、聞きたい…。
ミクはそう思った。