リムを狩る者たち5
改稿済
低木を弾き折る勢いで、俺は地面に叩きつけられそうになる。
しかし身の軽いリムの身体は宙を回転し地に着地して、
「そうだ、怒れ!叫べ!」
さらに叫んだ。
「うがあああっ…」
何度も投げられ背中を地面に叩きつけられそうになるが、そのたびにかわせる身体能力の高さに驚いた。
「認めろ!お前のリムは、死んだ!」
お館様が棍棒のような武骨な腕で、俺の顔面を殴ろうとする。
女の子の顔は反則だろーが。
「うるさぁぁぁぁいっ!うるさい、うるさい、うるさいぃぃ!」
壮年の男の顔が憎しみで歪み、真っ赤な顔で叫びながら地面を殴る手は止まらない。
「もうやめて下さいっ…お館様!」
泣きながら飛び込んだ村人たちが俺とお館様の間に立ち、腕が止まった。
「リム…リムがいる…俺のリムは…」
お館様が草に横たわる、白い骨と皮を見つめ、
「そうだ…死んでいるんだよ…」
俺がそう呟くと、草に突っ伏して堰を切ったように泣き出す。
「う…お…お…おおん…っ」
「こういうときは感情を爆発させるのが一番だしさあ。……なあ、お館様」
泣き続けているお館様に、俺はあぐらをかいて話しかけた。
「あんたのリム、埋めてやらねえか?リムは自然に任せて地に返すのが教義なんだろうけどさあ、俺、辺境の人間なわけで教義とかないしさ、人は埋めるだろ?リムだって、人から生まれたんじゃんか。だからさ、同じ自然でも野ざらしより、土の柔らかなベッドに寝かせてやりたいよな」
お館様が俺の言葉半ばで泣きながら何度も何度も頷き、村人がシャベルで林檎の木の下にリムが横たわるベッドを作り始める。
お館様はその土が柔らかくなるように泥だらけになりながら崩していて日が高くなっていき、リムの横に座って泣きながらお館様が作った土のベッドが完成した頃には、日は真ん中になっていた。
「お館様、リムを…」
戸惑うお館様に、俺は馴れた手つきで乾いた死体を草から剥がし始める。
もはやリムのくせにとか言われないようだ。
村人は帽子を胸にし、俺は力仕事にはむかない子どもの身体でリムの身体を半分支えた…ほぼ乾いているから軽いんだが…長い!
つまりこのリムは背が高いのだ。
死体は埋めてやる方がいいと言い出した俺のやり方は、ダクラム隊でも驚かれた。
「死体に付いた蛆虫を食べるほうがいいじゃん」
とラーンスが言ったからそれを俺のほうが驚いた。
「ん?」
下の方はまだ水分があり、ぼろぼろとリムを食していた蛆虫が落ちたが、頭が抜け落ちないように首に触れた瞬間、違和感を感じて俺は蛆虫を払いながら確認をした。
「そっか…可哀想に…」
そうしてそっと膝丈程度の深さの穴の中にリムのレディと、コロコロと転がっていた蛆虫も足元に入れてやる。
「お館様、ゆっくり足元から土をかけてあげろ」
「お…俺が…やる……」
とお館様が泣きながら、顔面をぐしゃぐしゃにしながら土をかけた。
「リムの体は土と同化し木の栄養となって林檎の木を豊かにする。お館様のために、また、働けるんだ。いいリムだったな…」
「フレア…俺が…つけた。死んだ妹の名」
「え?」
「リムを迎えるとき、主はリムに名前を与えるのだよ。前の名前は、もう口には出せないのだ」
老人が深々と俺に頭を下げた。
「風呂と食事を用意したから、来なされ」
えーっと…死体の重吾はどうする…?
「俺の主は瞑想中だ。俺の主も運んで欲しい」
全く…事態は迷走中だ。
俺はランクルの中のダルい重吾を指さして願い出た。
この死体の重吾を毎回どうするか…考えもんだな。
車椅子にでも乗せてやらないと…俺はどうにも脆弱な子どもの身体を軽く拭くと、リムコートをハタハタと翻して唸った。
親切なる老人の心の奥底には、『凶状』持ちであれどもリムに引き合わせ、万が一にもリムが反応したら…と考えているのだろうが…あのお館様もリム狩りからリムを買ったのか?
「うーん、違うぞ…変だ」
あのお館様は、ファナ(俺)に全く無関心だったはずだし、むしろ、ファナに関心を強く持つのは…。