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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十六章 砂漠の楽士
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砂漠の楽士1

「レイー、レイモンドー!どこなの?どこにいるのー?」


 華やかな色とりどりの花の下で眠っていたレイモンドは、被っていた布を手繰り寄せて顔にかける。


「レイ!陛下から…ムーンガルドから使者が…いた!レイ、もう…探したんだから」


「うるさいなあ…フラウワは」


「探してあげたのに…ひどい言いぐさね。ムーンガルドがら逃げてきたくせに」


「だって、父さんがうるさいんだ。成人したと思ったらいきなりなんだよ」


 レイモンドは仕方なく起き出して、フラウワのセパレートに分けられた服の間、柔らかな腹にレイモンドのふわふわの頭が当たってしまう。


「きゃあ!」


 腹の肉のまろみに、


「ん?フラウワ、太った?」


と女心をチクリと刺す言葉を吐いてしまい、反省は既に遅し。


「失礼ね!爪で引き裂くわよ!」


 フラウワの怒りに満ちた声に、肩を竦めたレイモンドだが、


「オアシスで牙と爪を出すのはルール違…」


パンッ…と小気味良い音がして、フラウワに平手打ちされた。


「ってえ~…ひどいよ、フラウワ」


「ひどいのは、レイでしょ。ね、横、座って良い?」


 花の下は二人が座ってちょうど良い空間になっており、少し高い丘のここは、ちょっとした特等席だ。


 敷地はフラウワの父…オアシス長のものだから、あまり人はこない。


「綺麗ね…」


 目下に水をたたえた瓢箪型のオアシスが広がり、果物がバザールにたくさん運ばれていた。


 甘いオアシスの果物は、ガーランド王国の港を経由し、セントラルを中心に売られている。


 ムーンガルドに次ぐ大きさのオアシスで、港オアシスからもっとも近いオアシスか、ここダイナナだ。


「今日のご使者さんは、父さんに絵姿を渡していたわ」


「また、見合いか…」


 フラウワは栗色の長い髪を触りながら、


「私はちゃんと尻尾も耳も牙も爪もあるわ。乳兄弟だけど、レイよりも少し先に成人したし…別にレイのこと嫌いじゃないし…」


ともじもじとしているが、レイモンドはふわふわの青銀の髪に青い瞳を煌めかせて立ち上がった。


「なにか…音が…聞こえる」


 レイモンドがそのままいきなり駆け出した。


「レイ!ダメよ、聖獣になったりしちゃあ…」


 しかし、フラウワの忠告よりも先に身体が変化した。


 身体が霧がかり透けるようになるとともに、純白の獣の姿が重なる。


「おお!聖獣だ」


「レイモンド様!」


 空を掛け上がる唯一の大きな獣に、オアシスの人々が声を上げた。





 レイモンドが聖獣に変化したより少し前…。





 ミクは驚きのあまり声を上げていた。


 シャアから二つ返事でヴェスパ行きを許可され、新しい長衣に、ビシュートではなくボレロにしてもらった着衣は着心地がよく、ミクとミクの警護のラーンスはイーズに見送られて、宮塞(みやとりで)の外に出た。


「宮前に付けたのは初めてだよ」


 ほてほとと歩いてくるミクにとってはあり得ない獣に、ミクが叫んだのだ。


「巨大なジャンガリアンハムスターが歩いてる!」


 ミクよりも少し小さいが、ゆうに小学生サイズのジャンガリアンハムスターが、


「僕を見て驚いてるってことは、やっぱり陛下の楽士様は辺境人なんだね。クサカ様とおんなじだ」


と、少しキーの高い声で髭を揺らしている。


「しゃ…喋っ…」


「あたりまえだろ、モフル族なんだから」


ラーンスはミクに言いながら、宮塞というか、土壁のところで軽く手を振るイーズに、


「早く陛下のとこに行けよ」


と叫ぶ。

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