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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十五章 砂漠の陰謀
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砂漠の陰謀10

「あんたさー、体力ありすぎー」


 ラーンスはぶつぶつ言いながら寝台の上に転がる。


 族長第二王位のイーズを『あんた』呼ばわりもどうかと思うが、『おまえ』呼ばわりしてないだけましだと、ラーンスは心の中で毒づいた。


「そうか?体力はある方が良いだろ」


 部屋の中に麦酒樽があり、セントラルで飲まれている麦酒より濃い麦酒を杯に入れて寝台に持ってきてくれ、ラーンスはそれをがぶ飲みする。


「なあ、ラーンス。リムのことなんだが…」


「またリムかよ…」


 寝転びながらラーンスは器用に麦酒を煽り、不貞腐れた。


「ラーンス、俺はリムを見たことがある。モフルーの治癒の泉で。金髪のリムは楽しそうに森で駆け回っていたが、お前はリムの使役のことばかり話す。ガーランド王国…お前がリムだった頃の話が聞きたい」


 イーズの真剣な眼差しにラーンスは麦酒の杯を飲み干して、おかわりを要求する。


 素面で語れる程気軽な話ではなく、リムの話を御伽に話し始めて、リムの時の癖が出るようになってきた。


 イーズが何を思いリムについて聞きたいのか分からないが、興味本意ではないのは茶色の目を見てわかる。


 夜着のトーガを引っ張りあげ着込むと、麦酒を貰って寝台に座った。


 その隣にいつもなら横臥のイーズが、ラーンスの横に座り、


「話してくれ」


と促してくる。


「しかたねぇな…。リムは五歳で成人するのは話したよな。楽園育ちの俺は、楽園付きの騎士のリムになったんだけど、巡回中に拐われたんだよ。リム狩りさ」


 でも、あの時のことはあまり覚えていなかった。


「ガーランド領地の王子クルイーロの前に連れて行かれて、イニシエーションを行われた。クルイーロに接吻されてリムを触れられると、身体中が痺れて頭にもやがかかってなんだか幸せな気持ちになるんだ。クルイーロから名前を与えられ、命令通り色々な騎士に仕える」


 ここまではいい…ここからだ。


 空になった杯に麦酒を満たされ、酔いが回り始めたラーンスはふわりとイーズの香りに包まれる。


「続きを」


 イーズに肩を抱かれ、仕方なく続きを話し始めた。


「初めはガゼルを仮のマスターにしていたけど、チロルハートが欲しいって言って、俺はチロルのリムになった。そこからはめちゃくちゃ。俺を小遣い稼ぎに売るし」


「売る?」


「ああ。リムに近寄れない奴等もいるだろ?そいつらに売るんだ。犯されたり、パフォーマンスさせられたり、様々さ。それから、チロルはリムに攻撃をさせることをさせ、俺は穢れであちこち壊死してさ…死にそうになったわけ」


 今は染みひとつない肢体だが、半年前には真っ黒に壊死して汁さえ溢れ出ていた手足。


「で、クルイークにリムの刻印を刺されて、全身が跳ねるほど痺れて…心臓が痛くて…多分死んだんだ、俺は…」


 少しだけ嘘をついた。


 河原で日下のじいさまを見つけて傷をふさいだら、

チロルハートに見つかり、チロルに刺されたのだ。


 死んでいる日下を綺麗な遺体にして、孫娘に渡したかっただけだったが、チロルハートには気に入らなかったようだ。


 死にかけたラーンスの口に、日下の血の塊を飲み込ませ、チロルハートに跨がれ犯される強烈な感覚。


 ラーンスのカニバリズムのスタートになっていて、そのあとは死にかけのぐちゃくちゃの身体を突き通すクルイークの刃がひたすら痺れて…苦しくて…リムの力が消えた。


 日下のじいさまの遺体を抱えて飛び込んだ川面は優しくて…優しく、このまま死んでしまいたかった。


 ちゃっかり生きていたけれど。

 

「ラーンス、俺は全てのリムを自由民(ナーザール)にしたい」


 イーズが呟いた言葉は、ラーンスにとって驚きだった。


 自由に…なりたい…人と同じように…。


 ラーンスは酩酊に任せ、瞳を閉じた。


 

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