砂漠の陰謀9
多分…何らかのいざこざになる。
「陛下、僕、ヴェスパに行ってみたいです」
「あ、ああ…よかろう。護衛にラーンスを付けよう。…他には?」
ラーンスは不満を叫んだようだが、ミクは聞かないようにして
「あの、陛下、飾り帯をはずしてもいいですか?」
と聞いた。
バイオリンを奏でるには少しだけひきつれるのだ。
「うん?ブルーラグーンの自由民の証がないと…」
「袖や裾に縫いとりではだめですか?あとトーガも長すぎて…」
「辺境の楽器を鳴らすには難しいのか…分かった。衣装を何とかしよう。他には?」
他には…と言われても…何もない。
「陛下?」
「いや、何でもない。誰か、衣装仕立て屋を手配しろ」
シャアに対してまだ何が言い足りなかったのかミクには分からず、
「ミーク、鈍感」
とラーンスに言われても、
「え?なにが」
やっぱりなにがなにやら分からなかった。
この砂漠で毎日朝晩湯にはいるとか、尋常じゃないぜ…。
ラーンスは湯張りの湯槽からざばりと出ると、待ち構えている女使用人からタオエルを受け取る。
元々リムだったラーンスは温かい湯が苦手で、川の水浴びがちょうどいいのだが、文句を言える立場ではない。
辺境人のミクは湯が大好きなようで、サボンも使うようだが、泡立つサボンだけは遠慮していた。
「あのさあ、俺、一人で出来るんだけど…」
膝までに切ってもらったトーガを持って待つ女使用人は、
「お仕事でございますよ」
とラーンスの金髪をタオエルで拭いてくる。
成人していてもラーンスもミク同様背が小さめで、どうにもドラクーン族は女も男も背が高いから、すっかり子ども扱いだ。
「私は王族の方々の身の回りを甲斐甲斐しく世話をして、砂金を得ますし、ラーンス様はイーズ殿下のお話相手兼最もお近い近衛騎士として、自由と砂金を得ます。お互いにお仕事でございますよ」
「じゃあ、俺は朝から晩まで、時には深夜まで仕事してるってことになるよな…」
ドラクーン王子の相手は骨が折れる。
一日中どっかかしら身体中が痛いのだ。
「そうですわね」
「まあ、リム時代より気楽だけどさ…」
髪を整えられ、身支度をさせられる。
「殿下は幼少の頃からご気性が荒くいらしてますから、ガス抜きにラーンス様は丁度宜しかろうかと思います」
あーそーですかい…俺はその程度だよ。
「申し上げますが、殿下は信用の置けない方を寝所に招いたりはいたしません。未だにあなた様一人ですから」
古参の女使用人がぴしりと言い、ラーンスは眉を潜めた。
「う…分かったよ」
もはや言い返せない。
ラーンスは隣の部屋で待つイーズのところに向かった。