砂漠の陰謀8
まるであのクラスの…あの言葉のようだった。
ミクに言われているような、胸の痛みにミクは胸を押さえる。
「ミク、大丈夫か?」
「う…うん…」
ラーンスが心配している。
こんなことでへこんでいてはダメだ。
ミクは背筋を伸ばし、広間から外庭に続くテラスへ向かうオアシス長を見送る。
テラスには既にオアシス長護衛の人々が集まっていて、自分のオアシス長を見つけると何やら話してから、羽を広げ飛び去っていった。
「楽士様」
ヴェスパ長がミクに近寄ってくるのが分かると、ラーンスが前に出てミクを庇いながら剣の柄に手をかける。
一部残っていた警備にも緊張が走ったが、ヴェスパ長は一定の礼節距離を保ち、ミクに頭を下げたのだ。
「うちの者が無礼を働き、申し訳ない」
ちらりと後方に目を向けたヴェスパ長の視線の先には、バサールで暴れていた男と、嗜めようとしていた男がいて、
「どちらも、せがれでして」
と再び頭を下げた。
「いえ、なにもなくて良かったです」
ミクはあのあと、嗜めようとしていた男が、女の子の饅頭をお詫びだと言って全部買ったのを知っているし、砂のついた饅頭を暴れた男が食べたのも見ている。
悪い人ではないのだと、理解していた。
「お詫びに、近々、ヴェスパにお越しください」
「え?」
ヴェスパ長が更に頭を下げて申し出る。
「小さなオアシスですが、暖かいオアシスです。わしの自慢の人々です。あとは…魚と芋くらいしかありませんが…よいところなのです」
必死のヴェスパ長に、ラーンスとミクが目を見合わせた。
「へ…陛下がお許しになるなら…」
ミクがそう言うとようやく顔を上げて、待たせていた息子たちを連れて羽を広げて飛んでいく。
羽が出せるように切れ込みの入ったトーガは、シャアも着ていたが、そういう意味でもあったのか…とミクは思ったが、シャアが羽だけを出しているところは見たことがなった。
真っ赤な羽が綺麗だろうな…と夕日に輝く羽をはためかせ小さくなっていく姿を見つめていると、
「ミク」
と、誰もいない部屋の中に退出したはずのシャアが横に現れる。
「え?陛下…どうして」
「裏の隠し部屋で聞いていたらしいぜ。こ狡いやり方だよな」
ラーンスがイーズの腕を小突いて嫌みを言うが、
「これは上に立つものとして当たり前…いたたた…」
ラーンスの指が腕の肉をつまみ上げたようだ。
どうにも二人は仲がいい…ミクはくすりと笑ってしまう。
「さて、ミクは…どう思った?」
宵の闇が上から降りてきて、砂漠は白く輝いている幻想的な風景の中で、ミクは
「このままでは…終わらない気がします」
と呟いた。
「そうか…」
「小さいグループは常に不満を持っていて、そのはけ口を誰かに向けたがる…その時の言い分けは『あいつが悪い』なんです」
そう…少しだけミクの方がバイオリンに熱心だっただけだ。
なにも悪いことはしていない。
ミクがあの女学生より不熱心で下手だったらよかったのか?
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『死ね』
『ウザい』
『キモい』
『世の中のごみ』
と書き込まれ笑われるほど、自分がひどいことをしたような事はない。
「ミク…?その他には…」
シャアが促してきて、ミクは我に返った。