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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十五章 砂漠の陰謀
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砂漠の陰謀7

「ヴェスパの、陛下のお膝元のバサールで羽を広げたそうだな。羽開くとは、戦いの証。陛下に仇なすつもりか」


 別のオアシス長が、オアシスヴェスパ長に言い放つ。


 椅子に座るのは、シャアとイーズだけで、オアシス長は床にひかれた絨毯に胡座で、左右の壁には宮殿警護兵が槍を持って立ち並んでいた。


 その中で帯刀しているのは、シャアとイーズ、それからラーンスだけだ。


 ミクはヴェスパ長がいきり立ち上がるのに、びくりと震え上がる。


「ひっ…」


 息が漏れてしまい、ミクをちらりと見て、ヴェスパ長が、


「あ…いや、楽士様…大丈夫です」


と腰を降ろす。


 ミクは息を深く吐いて、剣に手をかけたラーンスも緊張を解いた。


「実は…我々の気が立っているのは、隣のダイナナが侵攻してくるという噂が流れてきたからです」


「ダイナナが?ウォールフとは、陛下が不可侵条約を結んで五年。オアシス同士のいさかいはないはずだ」


 身を乗り出したイーズが、横のシャアを見る。


「確かか?その噂の出所は?」


 ざわつきはドラクーン全オアシス長に広がり、ヴェスパ長が頭を下げた。


「はい、陛下。行商人が来まして、話してくれました。そのあとには流しの語り屋がヴェスパに来て、南や北の様子を語り、そのあとにダイナナにウォールフの王子がいると…」


「ヴェスパ長よ。王子がダイナナにいるからといって、戦いになるとは限らない。捨て置け、噂だ」


 シャアの低い発言にも、ヴェスパ長が首を横に振った。


「それだけなら…」


「それだけではありません。港オアシスでも噂は持ちきりです」


 さらにざわつきは大きくなり、別のオアシス長が声を荒げる。


「港オアシスはモフル族のオアシスだぞ。モフルーは誠実で嘘をつかない。つまりは本当か!ヴェスパの、我がオアシスが加勢するぞ」


「我がオアシスもだ」


 口々に戦いに対しての言葉がけをヴェスパ長に伝え始め、広間は混沌としたところで、ミクは動揺してシャアに歩み寄ろうとしたが、その声の混乱を封じたのはイーズだった。


「陛下の御前だぞ!乱れるなっ!」


 恫喝のような一声で、オアシス長だけでなく、壁に張り付く兵まで硬直し起立を正す。


 その広間をぐるりと見渡し、シャアが冷静な低い声で告げた。


「細意明確まで、動くことまかりならん。解散だ」


「はっ!」


 オアシス長が一斉に頭を下げ、シャアが出ていってしまうから追いかけようとしていたミクを、ラーンスが止める。


「イーズが行く。俺たちは少し待とう」


 シャアを補佐するイーズが席を立ち上がり、広間から退出すると、オアシス長たちが口々に言い始める言葉に、ミクは耳を塞ぎたくなった。


 シャアは優しすぎるのだと。


 弟殿下の方がドラクーン族の族長にふさわしいと。


 長子相続は無意味だと。


「ひどい…」


 ミクは泣きたくなった。 



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