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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十五章 砂漠の陰謀
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砂漠の陰謀5

 シャアと食べ歩きをしていた最中だった。


 食べ歩きのときは、ミクが砂金を払う。


 毎日というくらいブルーラグーンのあちこちのバサールを訪問しているミクは、食べたいものを買うのだが、時には高かったり安かったりするのを聞いてみたり、時には値切ることもしていた。


「なんだと!」


「…ら、ヴェスパは小さいオアシスだと言っているだけで…」


「うるっせえ、黙れ!小僧が…」


 パンに挟んである肉を落としそうになるほどの大きな叫び声に、ミクは震え上がりシャアを見上げた。


 シャアは紫水晶のような瞳を見開いただけで、それを傍観している。


「陛下…」


「うん。ああ、支払いを頼む」


 ミクが慌てて支払おうとすると、昨日より少し高いことに気づいた。


「どうして…?昨日より少し上がっています」


 亭主は曖昧に笑いを浮かべ、ミクに手を伸ばす。


「長会議で人が集まるのを見越して…なら、そのように陛下に伝えます」


 隣で喧騒を冷静に見ているシャアを、ちらりと見ながら亭主に砂金の袋を渡した。


 袋の中に掬い匙を入れ砂金を掬い上げた亭主が、口にしたより少ない量を手にして、ミクに砂金の袋を返してくる。


「金額は戻しますで、陛下にはご内密に」


 ミクが払い終わると、喧騒はさらに激しくなっていた。


 オアシスヴェスパの男が身体を丸く屈めたと思うと、背中から人の姿を覆うほどの羽を出したのだ。


「は、羽!オアシス内ではだしたらいかん!」


 男の連れらしい別の男が制止をしたが、男は止まらず別のオアシスの男に正拳突きをし、人混みに転がった。


「ヴェスパの!」


 人だかりが割れて、ぶつかった男がヴェスパの男に叫ぶ。


「羽をしまえ!」


「うるせえ、俺たちのオアシスを侮辱するな!」


 頭に血が上っているのか、興奮して口角から泡を飛ばしながら、剣を抜こうとしていた。


「陛下!」


「…私は…手を出すことは出来ないのだよ…ミク。族長は公平で在らねばならぬ」


 バサールの警備が来るにも人が混雑しすぎて、雑踏を掻き分けている。


「どうしたら…」


 シャアがミクの手の中のパニーニを持つと、バイオリンに目を落とした。


「え…?」


「早朝のあれは、どうかな?とても心が落ち着いた」


 シャアが紫水晶の瞳を細める。


 元々見知ったラーンスだからこそ、心にしみいったのだから、あの気の立った男に通じるのだろうか…。


 不安になるが、抜刀し振り回し始めた男の力は、ドラクーンの力の解放もあり強い。


「あっ…」


 数日前、キラキラ星を無心した、バサールの饅頭のような甘い菓子を籠手売りしていた女の子が人混みに躓き転び、籠から饅頭が転がり出ていってしまい手を伸ばした拍子に、ヴェスパの男の前に飛び出してしまう。


「やります!」


 ミクは肩からかけられるようにしたバイオリンケースからバイオリンを出すと、整った顎につがえた。


 G線上のアリア…滑らかな染み渡るように…。


 あの子を傷つけるのはやめてほしい。


 絶対にだ。

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