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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第二章 リムを狩る者たち
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リムを狩る者たち4

改稿済

 その『凶状』のリムである俺は、老人を見上げ鼻を鳴らした。


 成る程…父と母がファナの誕生と共に死んだのだから、『澱み』を持っていてもおかしくはないが、リムが主のために人を殺すと、色素沈着が表れるのか…と俺は冷静に分析をする。


「濁りがあるリムは人を殺したリムだ。つまり、わしに切り裂く風を向けたリムは…すでに呪われている。しかも…リムの刻印が輝いているならば、そちらの生きた鉄の中の御仁が主なのであろう。失礼をした」


 杖をコツコツとついた老人に、はーっと俺はため息をつき、自分の手のひらをポンチョに隠した。


「よかった…成功して…」


 ランクルを揺らしていた雰囲気農夫たちが散って行き、老人だけが残り、死体の重吾と俺に頭を下げた。


「すまなかった。我々にはリムが必要だったのだ、お館様のお心のためにも。よろしければ…ご覧くだされ」


 老人が早足で細い道に入っていくのを見送り、ランクルをどうするか悩んだあげく、運転席に乗り込みハンドルを持った。


 ランクルの窓を開けさせて朝の風を浴びながらゆっくりと進んで行く。


 老人はちらりとこちらを見たが、乗せた寝首を掻かれるなんて嫌だから却下だ。


 それにしたって杖をつきながら…足早だな。


 森にある丁寧に育てられたような整然さのある果樹園は静かに実をつけ、朝の作業をする人々がもいでは籠に入れていた。


 木々がざわついていた。


 リムは自然の一部である、だからこそファナの身体にいる俺にも感じられるのかも知れない。


「まだ、ここにいらしたのですね。お館様」


 下草が柔らかな大きな林檎の木の下に、作業着の大柄な壮年がうずくまっていた。


「う…うん…」


 どうにも鈍く、反応がしい。


「お館様は農作業以外はどうにも苦手でしてな。リムを迎えるのも大変でした。この森から出られないお館様のために、フリーのリムを探し出しては、お館様に引き合わせました。やっとお館様に巡り合ったリムでしたが一週間前に死んでしまい、この有り様です。そこで新しいリムをと思ったのですが…」


 俺はランクルから出て木の下を覗き込んで言葉もなく、見なくても分かるそれを、諦めて見てしまう。


 茶色の長い髪は綺麗に緑の草に流され、白いコートをかけられた白骨化の始まったリムの死体が、そっと横たえられていた。


「優しいリムでした。人に心を開けないお館様が、このリムにだけは、話し、笑い、本当に幸せそうでしたが、リムは寿命が来ていたのです。二十歳程度までしか生きられないのですから…」


 力を使い果たし、リムとして死んだのだから、と、老人が言うのももっともだ。


 リムの保護を目的とするダグラム隊では、ひどい有り様のリムをたくさん見てきた。


 しかし…これは…。


 死んだリムの回りにはきれいな花が飾られ、お館様が小さな声で喋りかけている。


 しかしこのままでは可哀想だ。


 俺のやることは、お節介かも知れないが、こんなリムを見るのは警察官魂としても人としても辛いのだ。


「なあ…お館様」


 俺は泣いているファナをぽんぽんと撫でてから、幸せそうに喋っているお館様の横に座った。


 それから、金髪を掻いて藪から棒に口に出す。


「もう死んでんじゃん」


「…!」


「だからさあ、そのリムは、死んじゃってるって。骨じゃんか」


 大柄な体躯がうなり声を上げながら、俺の胸ぐらを掴んだ。


 あ、ポンチョが脱げる。  

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