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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十四章 それぞれの戦い
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それぞれの戦い10

 ファナの魂である重吾の生まれ育った辺境は、月が欠けることがあるらしいく、その満ち欠けに名前があるのだと聞いた。


 真ん丸の月は『マンゲツ』と言うらしく、辺境の古い言葉で『モチヅキ』と言うそうだ。


 満たされた月…その光を浴びて、甘美に満たされた気怠い肢体を起こしたシャルルは、乱れた巻き髪を掻く上げて甘く嘆息する。


 大きな月はテオの透き通るような美しい肌を晒し、鮮やかな髪を染め上げ、シャルルを翻弄した身体を輝かせていた。


 リムを守るためになんて大義名分は大きな嘘だ。


 全てのリムを虜にするらしいクルイーロにテオを取られたくない、触れられたくない。


 クルイーロの指がこの美しい白い肌を伝うなど、虫酸が走る。


 私怨に近い感情が、シャルルを突き動かしていた。


 テオの形のいい赤い唇が息を吸うために少し開き、シャルルはそこに唇を添える。


 柔らかな感覚を感じて離れようとするが、頭を軽く押さえられ深く吸われて目を見開くと、テオの緑の瞳がいたずらっ子のように笑っていた。


「んっ…」


 官能を刺激するような接吻に溺れ、互いにむさぼるように角度を変えていき、テオの指が肢体を下へ伝うようにくすぐると、


「これ以上は…ダメだ…」


と唇を離した。


「どうして?俺はシャルルを感じたいのに…」


「馬車に乗る銀の聖騎士は見苦しい。騎士は騎馬に跨がらないとな」


 これ以上肌を重ねるのは、身心的に辛いからだ。


 やんわり引き離し寝台の隣で横になり、テオの手を握る。


「今日から少しだけ…離ればなれだな」


「俺もついていっちゃダメ?」


「ダメだ。国王の役割を果たせ」


 即断すると、テオの頬がぷ…とふくれた。


「視察ばっかりだ…シャルルもこれをやっていたの?」 


「当たり前だ。国民の小さな声をその場で聞くことに意味がある」


 謁見に来るのは村長だけであり、背後の村人の顔は見えない。


 表情、雰囲気…そんなものは、その場にいかないと感じられないのだ。


「だから、頑張ってくれ。テオドール王」


「やめくれ、『王』言うなって。たった数分違いで生まれただけなのに、長子後継なんて…父上は」


「いいじゃないか。似合っている」


「よくない」


「この俺がいいって言っているのだ。認めろ」


 テオの手にキスをするとテオを黙らせて、思いに馳せる。


「明日は忙しくなる…」 


 城の広間にはクリムト領地の生き残りがいた。


 クリムト血戦のあと生き残りの領民を、一時的にジュリアス王国の最南端のカディス領地に預かってもらっていたが、クリムトの民は領主の元に行きたいと言い出したのだ。


 しかし元領主クリムトはグランディア王国の騎士ハイムのリムとして存在し、その陳情に最南端の領主のリムであるクーンが同行している。


 歩きの領民と、馬車に、騎馬に、ごちゃまぜを指揮して、早駆けなら丸一日でたどり着くグランディア王国に、数日掛けて行くのだ。


 そのあとは…もう…ここには戻らないつもりだった。


「テオ…このまま手を繋いで眠ろう」


 夜明けまでまだ間がある。


 この温もりを忘れたくはなかった。


「珍しく、甘えたがりだね。シャルル」


 きゅ…と握り返してくる温かい手を感じて、瞳を閉じる。


 テオの残された時間を守るために、この命はあればよい。


 シャルルはそう思った。

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