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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十四章 それぞれの戦い
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それぞれの戦い9

これが本日分になります。

 シャルルは足早に義母のいる奥部屋に入る。


 明るい大広間は、この王国の亡きジュリアス王の妻であり、あと五年…テオ亡きあと、幼子を抱えてジュリアス王国を牽引して行かなくてはならない義母が、温かな光の中で縫い物をしていた。


「義母上、彼女たちへの服をありがとうございました」


 刺繍麗しいソファに座る義母は、長い髪をサイドに束ね、緩やかなドレスのふっくらした座り姿のまま、鳶色の瞳をシャルルに向ける。


「元々あなたにしつられた、あなたが着なかった服です。仕立て直した御針係を労いなさい」


 生んでくれた母より長い付き合いの義母は、柔らかな声で使用人を呼び、何人かの使用人が布を掛けた大きな額縁を持って入ってきた。


 テオがいないと…知ったな…卑怯な。


 シャルルは心の中で舌打ちをし、義母との戦いに備える。


 額から現れた立ち姿絵から視線を反らすと、


「美しい方々でしょう?あなたはどのかたがお好み?」


と声を掛けられた。


「俺にはテオがいます」


「リムを()取ることは、銀の聖騎士として当たり前です。我が夫ジュリアスにもリムはいました」


 そればかりか、シャルルの母を第一夫人としていたのだから、ジュリアス王の懐の深さと度量には敵うはずもない。


「確かにそうですが、俺にはテオ以外考えられません!」


 義母はまだ寝返りすら出来ない弟の柔らかな巻き毛を優しく撫で、


「この子を一人にするつもりですか…?」


と呟いたのだ。


「リムのテオもあなたもあと五年しか生きられない。そしてあなたがたの死後、五歳のこの子はただ一人幼い王になります。あなたはこの子に、国と臣下しか与えないのですか?善き友であり話し相手でもある親族もなく、この子には一人ぼっちになってしまうのですよ」


 義母は残される我が子のために、人と婚姻し親族を増やせと言うのだ。


 シャルルには義母の気持ちは痛いほど分かるが、首を立てに振ることは出来ないでいた。


「シャルル。テオとは…」


「義母上…!義母上、お許しください」


 シャルルは義母に片膝をつき、騎士としての最高の礼を取る。


「父は形だけの聖騎士だった。俺は銀の甲冑に選ばれた、銀の聖騎士です。俺の命はリムを守るためにあるのです」


 リムの流した涙が大地に染み込み、守り手を作り出したと言われる銀の甲冑。


 そしてリムを守るために、聖騎士の命を吸い上げて力を振るう大地の剣。


 シャルルは全てのリムの守護者として、短く儚い命のリムを最大に生かすのだ。 


「俺は銀の聖騎士として、リムの唯一の自由を奪ったクルイーロを許すことが出来ない。リムを狙うクルイーロを命掛けで抹殺します」


 驚いて声もでない義母に、シャルルはさらに告げた。


「これは…テオにも伝えていません。その時は一人で向かいます。テオをクルイーロに捕らえられては、ジュリアス王国まで奪われることになる。テオは国王として義母上に残します。だから、だから、俺のことは…」


 二人の沈黙に幼すぎる弟がふにゃ…と泣き出し、階下がざわついて、国王の帰還を伝えに来た。


「姿絵を返しましょう…。今はその時ではないようですね」


 義母に抱かれた赤子が、乳房を求めて母の胸に顔を寄せている。


 何となくテオに似ているような気がして、シャルルは微笑んでから退出をした。


 

  

  

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