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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十四章 それぞれの戦い
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それぞれの戦い8

 あの子達は幸せなのだろうか…。


 エバグリーンはリム管理人としての柔らかな雰囲気を作るための長い髪を束ねて団子にし、新たなる地へ旅立つ娘たちを室内から見下ろしていた。


 彼女たちを自衛隊のアイドル歌姫として抜擢したのは、当時の自分だ。


 自衛隊には各隊式典歌姫がいる。


 しかし、エリートの彼女たちを最前線慰問に出すことなどできないでいた。


 そこで広報戦略課に所属していた緑里ことエバグリーンが、『条件に合う』娘たちを探し、名前を捨てさせデルタフォースを結成した。


 初慰問ライブのフライトで落雷にあい、現在に至るわけだ。


「みな、元気があって健気で美しいな」


 彼女たちを同様に見送るシャルルが、本当に羨ましそうに呟いた。


「あの子達は、私の自慢の娘たちです」


 今でも、出会った時の彼女たちの姿が瞼に焼き付いている。


 一度だけでも構わないから、歌わせてあげたい。


 エバグリーンは心底そう思い、寝台に横たわる小さな黒のリムを見下ろした。


「起きないな…何かあるのか?マスターが死んでなお、リムの輝きがある」


 シャルルも心配そうに見下ろす。 


 意識を失って丸一日。


 打ち所が悪かったかと焦ってみたものの、ジュリアス王国の医師の見立てでは『眠っている』だそうだ。


 テオが言うには五歳になりたてくらいの…つまり初陣らしいのだが、黒の楽園出身のリムではないらしい。


「リム狩りで連れていかれたリムかもしれない」


 しかし…このまま眠り続けるのは身体に良くない。


 衰弱をしてもこの世界には医療が整っていないから栄養の点滴すらないし、今はただ匙で少しずつ甘水を流し込み、生理的嚥下を待つしかないのだ。


「エバグリーン殿、何か聞いているか?」


「ガーランド王国潜入していた陸が、リムを世話する使用人の手伝いをしていたが…王子の部屋にリムは連れていかれていたらしい」


 そこで何があったのかはわからないが、部屋から出たリムは男女問わず従順で、何故か様々なマスターに仕えていたらしい。


「本来、リムがマスターを選ぶことにより、リムの力は最大限に発揮されるものだが…ガーランド王国の双子王子には何かあるのかもしれないな」


 扉を叩く音がして、髪の長い痩せた女が入ってくる。


「医師殿」


「うむ、エバグリーン殿。王から再び要請があってね、そちらのリムを診察させていただくよ」


 もうしばらく赤毛のリムはこのままでいた方がいいと、再び来た女医師が告げ、エバグリーンは頭を下げた。


「ああ、シャルル様、お義母様がお呼びです」


 医師がシャルルに呼び掛けると、シャルルが


「ちっ…」


と小さく舌打ちをする。


「シャルル殿?」


「あ、いや、何でもない。テオはまだ視察か?」


「騎士団長と外れの橋の様子を」


「わかった…仕方ない、義母に会いに行こう。では、エバグリーン殿、この子に何かあれば連絡を」


 一人の使用人が扉の向こうに控えている。


 小さな痩せたリムは呼吸正しく眠り、出ていくシャルルにエバグリーンは頭を下げた。

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