それぞれの戦い1
改稿済
「ん…ぅ…」
俺はむくりと起き上がり、ぼさぼさの髪をかきあげる。
柔らかな虫の布の間に綿を入れた掛布をその隣で小さく丸くなって眠っているティータのふっくらとした女の子らしい肢体を眺めてから掛け直した。
もよおして起きたのだから仕方なしに寝台を降りて部屋を出て、足音を立てずにトイレに向かう。
部屋を出るときは服を着るように言われていたが、早朝のトイレに服を着ず俺は用事を済ました。
ほう…とため息をついて扉を閉めると別の扉がガタンと開き、俺は悲鳴を噛み殺して、その扉を見る。
「あら…ファナ様…よかったら…お願いします…」
クリムトがハイムの部屋から布団巻きの状態で芋虫のように出てきて、俺はクリムトの布団巻きの紐を外した。
「ありがとうございます。昨日少し甘水を過ぎまして…」
と裸体のまま慌ててトイレに駆け込む姿に、俺の眠気がすっとんでしまう。
あの女の子らしいクリムトの肢体は紛れもなくテオのような男の子であり、ファナにはない死体の重吾にはある物がついていた。
「ふう…ありがとうございました。ファナ様はわたくしの下半身の恩人ですわ」
粗相したらどうしようとなんて話しているクリムトの寝台は既に完成しており、別にマスターの寝台で寝る必要はなく、近くで眠るだけでリムは満たされるのだと、ティータに聞いている。
本当に深い繋がりを持つことは、互いの生死に関わるくらいの契約で、テオとシャルルのような関係は稀だとも聞いていたから、クリムトのその姿に違和感を感じた。
「少しおちょくるのやめてやれよ」
クリムトの布団巻きは就寝中のハイムを襲ったからに間違いなく、辺境伝授の布団巻き免許皆伝二人目になりつつあるハイムの必至の抵抗の証だ。
「……いやです」
クリムトはにこりと笑う。
「わたくしは…ハイム様…マスターの反応が楽しくて堪らないのですわ」
裸体のままのクリムトが
「うふ」
と可愛らしく首を傾げた。
「ハイム、嬉しくなさそうだぜ?」
俺が言うと、
「そこが堪らなく良いのですわ。嫌そうな顔や逃げ惑う姿にぞくぞくしちゃいます…と、そんなおちゃめなコミュニケーションですの」
と微笑みながら返してきて、どうやらランクルが俺たちにいたずらをするようなものなのだと理解した。
俺が部屋へ帰ろうとすると、
「ファナ様、少しよろしくて?」
と裸体のままクリムトが、誰もいない広間にファナを手招きする。
「クリムト?」
広間には一段段差があり死体の重吾の座る繊細かつ大胆な一刀透かし彫りの椅子が鎮座し、クリムトが座った段差に俺が座ると、ふわりと布団巻きの掛布を二人で肩を寄せ合い掛けた。
クリムトは華奢な小柄なほうの男の子で、ファナである俺はこの年回りにしては背が高い。
そんなに違和感がない。
「ファナ様、わたくしにリムの力の使い方を教えてくださいまし」
クリムトが俺にひそりと告げる。
「わたくしはヒトとして育てられました。着衣し学び自治を知り得ていますが、リムの力のコントロールはしたことがありません」
小さい頃は癇癪を起こした時に力が溢れ出したことがあるが、父仕える黒のリムが押さえ込んでいたらしい。