西のオアシス8
長い髪はたてがみとなり翼の付け根で薄くなり、滑らかな皮膚を感じさせる双翼は赤い皮膜だ。
全身が赤いドラゴンの相眸は、シャアのそれと同じく紫水晶だった。
「…陛下が…ドラゴン…」
二階のテラスに伏せるドラコンが、ミクの方を振り向いて、
「そうだ。…怖いか?」
と、いつもより少しくぐもって聞こえるシャアの声を出す。
この赤いドラゴンに助けられたのだ。
ミクは右手を差し出すとドラコンの鼻に触れ、それからその鼻頭に額をこつんと付けた。
「陛下は…僕のバイオリンを拾って…僕を助けてくれた…ありがとうございます…ありがとうございます…」
楽器に導かれたとはいえ、行動してくれたのはシャアである。
感謝しても感謝しても足りない…。
「ヒュー、大胆~」
ラーンスに冷やかされ、
「え?」
と不思議に思うがよくよく考えてみると、ミクはシャアが人の姿でいたら、鼻面に自ら接吻をしたことになるのだ。
「あっ…すみません…」
「謝ることはない。イーズ、ミクを背に乗せてやってくれないか」
イーズが頷くとミクを背後から抱き上げ、背を低く羽を平らに下げたドラコンの背中に乗せてくれ、バイオリンケースとシャアの衣装を手渡してくれた。
「上空視察している時に、町に降りたくなったら困るだろ?」
「……そうですね…。お預かりします」
ラーンスがくすくす笑いながら、
「まあ、陛下が素っ裸では威厳もないしな。こないだの、イーズみたいになるのは可哀想だ。ミク、空中を楽しんでこいよ」
と、どうやら経験済みだったらしい言葉を吐く。
「では、行く。ミク、私の髪にしがみつくといい」
ふわりと身体が揺れ、
「わあ…」
と、ミク声を上げた。
オアシスブルーラグーンの真ん中に湖があり、船が浮かんでいる。
さらには森と果樹園があり、人々が働いているのが見てとれた。
湖を中心に人々が暮らしているその中で、バサールがあちこちにあるらしく、昼過ぎの時間にも人が賑わっている。
「陛下、降りませんか?」
「わかった」
そのまま地上に降り立ち、人気のない森でミクがシャアに着替えを渡すと、シャアがミクに背を向けて着替え始めた。
風がシャアの後ろ姿を洗い、引き締まった臀部や括れた腰回りを露にし、ミクは真っ赤になる。
ダメだ…考えちゃ…ダメだ…。
先程までドラゴンになっていたとは思えないシャアが、ぽつんと呟いた。
「腹が減ったな…」
「え?」
「バサールに行こう」