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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十三章 西のオアシス
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西のオアシス6

 それからミクはシークのお側仕え楽士として、シャアのそばにいた。


 王宮内は大体把握したが、平屋建ての廊下で繋がる作りはまるで故郷の寺院のようで驚いた。


 シャアとミクが普段生活をしている最奥の部屋から廊下を渡り、ブルーラグーンを…いや、ドラクーン族の統治する広い政務室に入ると、朝には申し立てをしたいオアシスの使いの言葉を聴くシャアのやや後方に立っている。


 バイオリンも一緒だ。


 シャアの横にいるミクを気になる客人に、もてなしの曲を披露するのもミクの仕事であった。


 それはバイオリンの練習曲だったり、馴染んだクラシックだったりしたが、初めての楽器に初めての曲は客人を驚かせ喜ばせた。





「俺たちドラクーンには音楽がないから、とても新鮮だね。な、ラーンス」


 昼には必ず合流するラーンスに、なぜだか護衛のようにイーズまでついてくる。


「な、じゃねーよ。俺は楽園騎士団のダクラム隊騎士だ、ボケッ」


「でも今は奴隷商人に捕まり、オアシスめがけて逃げてきた自由民(ナーザール)。助けた俺のものだよ」


 赤いドラゴンに乗っていたイーズがラーンスの剥き出しの肩をなで回しているのを、ラーンスがその腕を捻り上げる。


「痛いなあ、俺のリムはやんちゃだなあ」


「もうリムじゃねーし!」


 ばっ…と胸元の小さなおできみたいな印を指差す。


「人もどきだ!リムの刻印は消えた。力もない。無様なことを言わせんな。オ、ウ、ジ、サ、マ!」


 イーズはシャアとは違い濃い目のブルネットにやはり一筋色違いの金髪が混ざり、深い茶色の瞳が人懐っこい感じがした。


「ひどい言い方。そう思うだろう、ミク」


 イーズにそう言われても、ミクは返答ができない。


 ラーンスが長衣を袖無しにしたのは動きにくいからだとかで、飾りベルトには長剣が吊る下げられていて、イーズの剣の練習相手をさせられているようだ。


 それ以外にもあるみたいなのだが、もう怖くて聞けない。


 何やら何かあるみたいなのだが、


「リムん時には、ふつーだったし、今さら別に気にすんな」


とラーンスもミクには話してこないが、イーズのなつきようと来たら、ラーンスを特別視しているようにしか見えない。


「外を見物しながら、昼食か。それはいい考えだ」


 足音がして二階の日陰テラスに、シャアが現れた。


 シャアの出現…それに心臓が弾むのだから、ミクだってイーズのことを言えないのだ。


 まるで…まるで…陛下に…。


 これ以上は考えまいと、ミクは頭を何度も横に振る。


「ミク、具合でも悪いのか?顔が赤い」


「い、いえ、陛下。大丈夫…です…」


 横に座られてしまい、


「ミク、パンを取ってくれ」


「はい」


平たいパンを手渡すと、並んでいる食材を乗せて器用に巻いて口に入れた。


 まるで少し厚めのクレープ生地のようなパンに具材を乗せて花束のみたいに巻く食べ物が、毎回昼御飯となるようで、シャアの身の回りを世話する少し年配の女がミクに持たせてくれる。


 王宮のどこで食べてもいいらしく、バイオリンケースを抱えたミクを見ると、ここで食べろとばかりに王宮の人々は陽気に手招きをしてくれ、ミクがバイオリンを披露してから食べるときもあった。


 同じような城でもガーランド王国とはまるで違い、ブルーラグーンの王宮は、明るくて親切でミクはこの乾いた大地を好きになりつつある。


 ここが自分の知る何処でもなく、まるで物語の世界のようなのもようやく理解した。


 服を着て喋る二足歩行の獣のモフル族なんて、絶対にあり得ないし、ドラゴンはゲームやお話の世界だけだと思っていたのに、ここでは現実だ。


「あ…」


 あのとき…見た赤いドラゴンは、何処にいるのだろう。



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