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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十三章 西のオアシス
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西のオアシス5

「よく似合うではないか、辺境人」


 再びソファに座るように促され、ミクは三人掛けほどのソファの片隅に座り、それを見て両肘当てのある一人掛けのソファに座ると、


「私はシャア。ドラクーン族の長であり、このオアシスブルーラグーンのシークでもある。一緒にいたのはイーズ、弟だ。辺境人よ、名前は?」


 美丈夫なシャアの紫水晶に見つめられると、ミクは胸が締め付けられる気がする。


 抱き止められた胸板の厚さと、筋肉の張りのある腕の確かさと温かさに、ミクは安心してしまっていた。


 それどころか…。


 いや、違う、これは…とうつむいて


「高畑美空…ミク…です」


と答える。


 シャアは紫水晶の瞳を真っ直ぐに向けてきて、


「辺境人はあんな黒服を?」


と聞いてきたから、


「高校一年で、あれは学生服…学校の服です」


そう答えた。


「ガッコウ…とは?」


 ああ、またこのパターンだ…シャアも…いい人みたいに見えるのに…。


「学ぶところです。六歳から通い、読み書き計算を学び…学校を作ります」


「学舎や学者への金は…王が出すのか?」


「はい。国が税金として大人から集めたお金を出しています」


 シャアが考える仕草になり、静寂する。


 話が終われば、また、牢屋に戻されるのかと、ミクが不安そうに長い衣を握りしめた。


 多分それがシャアに伝わったのだろう。


「辺境人であり、サハラーでの自由人(ナーザール)ミク。お前は私が助け貰い受けた客人だ。奴隷ではないが、ただしばらくは私の元にいてくれないか?イーズやハイムはどうにもリムが気になるようだが、私はお前の方が気にかかる。ミクを知りたいと思うのだ」


と真摯な瞳を細め、織物角箱の中からバイオリンケースを出してきた。


「僕の…バイオリン…」


 そっと開くとバイオリンはケースの中にきれいに収まり、弦すらもしっかりとある。


「バイオリンと言うのか。私の頭に落ちてきたこれは、昨日から腹に響くような音がしていた。ミクを求めていたのかもしれないな」


 ミクは柱魂が歪んでいないのを確認し安息をすると、シャアを仰ぎ見た。


 オアシスを一つの国とするならば、国王はシャアだ。


「ひ…弾いて良いですか?」


「辺境の音色か。是非聞きたい」 


 音叉も調理機もない自分の耳だけが頼りのバイオリンだが、じっくりとみる。


 弦は滑らかに奏で指はなんなく動く。


 座ったまま弾いた曲は技巧もない


『キラキラ星』


であり、可愛らしい音色に、シャアが目を丸くした。


 バイオリンを貰った日の夜…干からびたような祖母から学んだのだ。

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