西のオアシス5
「よく似合うではないか、辺境人」
再びソファに座るように促され、ミクは三人掛けほどのソファの片隅に座り、それを見て両肘当てのある一人掛けのソファに座ると、
「私はシャア。ドラクーン族の長であり、このオアシスブルーラグーンのシークでもある。一緒にいたのはイーズ、弟だ。辺境人よ、名前は?」
美丈夫なシャアの紫水晶に見つめられると、ミクは胸が締め付けられる気がする。
抱き止められた胸板の厚さと、筋肉の張りのある腕の確かさと温かさに、ミクは安心してしまっていた。
それどころか…。
いや、違う、これは…とうつむいて
「高畑美空…ミク…です」
と答える。
シャアは紫水晶の瞳を真っ直ぐに向けてきて、
「辺境人はあんな黒服を?」
と聞いてきたから、
「高校一年で、あれは学生服…学校の服です」
そう答えた。
「ガッコウ…とは?」
ああ、またこのパターンだ…シャアも…いい人みたいに見えるのに…。
「学ぶところです。六歳から通い、読み書き計算を学び…学校を作ります」
「学舎や学者への金は…王が出すのか?」
「はい。国が税金として大人から集めたお金を出しています」
シャアが考える仕草になり、静寂する。
話が終われば、また、牢屋に戻されるのかと、ミクが不安そうに長い衣を握りしめた。
多分それがシャアに伝わったのだろう。
「辺境人であり、サハラーでの自由人ミク。お前は私が助け貰い受けた客人だ。奴隷ではないが、ただしばらくは私の元にいてくれないか?イーズやハイムはどうにもリムが気になるようだが、私はお前の方が気にかかる。ミクを知りたいと思うのだ」
と真摯な瞳を細め、織物角箱の中からバイオリンケースを出してきた。
「僕の…バイオリン…」
そっと開くとバイオリンはケースの中にきれいに収まり、弦すらもしっかりとある。
「バイオリンと言うのか。私の頭に落ちてきたこれは、昨日から腹に響くような音がしていた。ミクを求めていたのかもしれないな」
ミクは柱魂が歪んでいないのを確認し安息をすると、シャアを仰ぎ見た。
オアシスを一つの国とするならば、国王はシャアだ。
「ひ…弾いて良いですか?」
「辺境の音色か。是非聞きたい」
音叉も調理機もない自分の耳だけが頼りのバイオリンだが、じっくりとみる。
弦は滑らかに奏で指はなんなく動く。
座ったまま弾いた曲は技巧もない
『キラキラ星』
であり、可愛らしい音色に、シャアが目を丸くした。
バイオリンを貰った日の夜…干からびたような祖母から学んだのだ。