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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十三章 西のオアシス
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西のオアシス4

 助けに行きたくても膝が震えてミクは動けない。


「っ…!」


 足音が聞こえて、ミクが必死でラーンスに歩み寄ろうとして、バランスを崩した時、その足音に胸元から掬い上げられ、


「え…」


ふわりと抱き上げられる。


「危ない。気を付けないと」


「あ、はい」


 低い心地よいアルトの声にミクが頷いていると、テノール気味の笑い声がして、


「やはり動けないか。サハラーがリムにとって苦手な場所というのは本当らしい」


と、別の人物がラーンスを軽々と抱き上げた。


「さて、お前はリムだったらしいな。自由人(ナーザール)よ、話を聞かせてもらおう」


 ラーンスが白い肌を真っ赤にしてじたばたとし、


「てめえ、話聞いていたな」


ともがきながら叫ぶ。


「ああ…『俺はリムだったんだ』あたりか…どうした?」


 両手に抱えられてしまったラーンスが


「はっ!ほぼ最初から盗み聞きかよ!」


と吐き捨てるのと同時、


「もう薬湯はいいだろう」


と、ミクを抱き上げていた人が、部屋の扉のところに控えていた長衣の女たちに声を掛けた。


 拭かなくともすっと染み込むような水はけで、ミクはそのままラーンスと離ればなれに部屋へ連れて行かれてしまう。


 学芸会で舞台に立ったアラビアンナイト物語のような建物の中で、窓から見える世界も物語みたいだとミクは思った。


 少し高い場所に立つ建物なのか、周囲に町がある様子と囲いの向こうに広がる砂漠が見える。


「すごい…」


 画像や本でしか見ることがなかった世界を目の当たりにして、ミクは感嘆の声を上げてしまい、ミクを抱えている人にくっ…と笑われた。


 ひと部屋に連れていかれた部屋も、また絨毯敷きの美しい部屋で、金細工を施したソファに座らせられると、


「陛下、お召し物を」


先程の女の一人が両手トレイを持って入ってくる。


「お前はいい。私が支度をさせよう。彼の服は洗って乾いたら持って来るように」


 トレイの上には服があり、


「この服は初めてか?辺境人」


と聞かれ、ミクは頷いた。


「では、着せてやろう。立ちなさい」


「えっ…」


 手を持って引かれて立ち上がると腰に手を当てられ


「ひゃっ…」


とミクは腰を引いたが、そのままくるくると膝よりも短い布を巻かれる。


「腰巻きは下着だ。お前は腰が細いな。ふむ…もう少し短めのものを後から用意させよう。その上から服を被って着て、腰飾りで緩く留める。室内では腰飾りははずしても構わないが、外ではオアシス住民の証になるから、外さないように」


 金がふんだんに使われている腰飾りには赤の石が散りばめられ、ミクはこの人みたいだと思った。


 ミクにかしずくように片膝をついて腰飾りの位置を直している真っ赤な長い巻き毛には、左耳の辺りからひと房金の髪束があり不思議だ。


「よし出来た」


 ミクを見上げた瞳は綺麗な紫水晶で、ミクはどきりとした。




  

 




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