西のオアシス3
「リム、本当に知らないのか?でも、お前、その髪…」
いじめの対象でもあったグレイッシュの髪は、この世界では違和感がないらしい。
ループスも青みがかった銀髪だったし、目の前のラーンスは綺麗な金髪だ。
「祖母が外国人で…」
「ガイコクジン?辺境人が?」
バスタブが隣に並んでいるのが滑稽だったが、しかしミクには話すしかない。
「辺境と言われる世界にはたくさんの人種が…」
「人種?モフルとか…辺境にもいるのか」
「ジョバンニさんみたいじゃなくて…」
諦めた。
人種というミクのカテゴリーが、ラーンスにはしっくり当てはまらないらしい。
「辺境にも黒髪以外にも、別の髪色がいるんだなあ。ジューゴが探してたのは黒だしなあ…違うか…うん、違うな」
一人心地のラーンスに声がかけられず、ミクは心地よい部屋の石の天井を仰ぎ見た。
天井は大きなドラゴンのレリーフが施されており、美しい幾何学模様の中のドラゴンを見ていて、ふと砂漠でのことを思い出す。
「俺はさあ…リムだったんだよ」
不意にラーンスがミクの肩をつついて、ミクの視線を寄越させるように呟いた。
「え?」
「リムってのは自然の力を操ることができるんだぜ。俺は壁をつくんのが得意でさ…」
ラーンスが無邪気に両手を広げて前につきだし、そのままばしゃり…と手を水の中に落とす。
「毎日毎日俺らは、騎士に仕えて働いて働いて酷い仕打ちも受けて…最後はリムの刻印を剣で突かれて『人もどき』だぜ?」
ラーンスの指差した鎖骨の間には小さな赤い点があり、まるでほくろかあざのように見てとれた。
「よくわからないんだけど…その超能力みたいな力は…もう使えないの?」
「使えねえって。今度は騎士として仕えろっつーんだから、ムカついてさあ。死んだクサカのじい様連れて川に飛び込んだのさ」
生き返った…と言ってるのかなあ…。
とにかくラーンスは悪い人ではないし、ミクにとっては半年ぶりに沢山おしゃべりをしてくれた人だ。
「ラーンスさん…」
「ラーンス」
言い直している場合ではなかったが、ラーンスの目力に負けて、
「ラーンス…誰も来ないね…逃げた方が、いいんじゃないかな…」
と言い換えた。
「……そだな。歩けるか?」
「わかんないけど…」
ミクはバスタブの縁に座り、ゆっくりと床に足を付ける。
右足…感覚はあり、左足…大丈夫だ。
「え…?」
そこに体重を乗せるとずし…と身体が重い。
ミクは何とかバスタブに掴まるがラーンスが
「ぎゃっ…」
と前のめりに倒れていた。
「ラーンス!」
「大丈夫…じゃない…」