閑話 正しいリムの使い方
改稿済
「私との勝負に負けたからハイムは私の下僕。だから、クリムトも下僕」
「ハイム様が…マスターが負けた…」
クリムトがよよよ…と芝居がかりつつ崩れて涙を流す。
ハイム絶叫の一夜が明けハイムの部屋からつまみ出されたクリムトは、早朝起きてきたティータにお説教をされていた。
「今後ハイムを襲わないことよ、いい?」
裸の幼女が天の羽衣よろしく薄衣を肩から纏い仁王立ちし、ふりふりキャミソールの男の子が正座をして頭を下げている風景は、どうみても異常だ…
と、俺は椅子に腰かけてあくびをしながら思う。
その横で右往左往するハイムがちと情けない。
「…妬いていらっしゃるの?あなた」
「馬鹿にしないでくれるかしら、この男子娘」
ノーパソから辺境スラングを覚えたらしいティータが、頑張って罵倒するがどうにもノーパソが個性的過ぎデータを持っていて、
おいおい、今時は『男の娘』か、女装男子だろ…
俺はは突っ込みたくなったが、
「まあ、ダンシムスメ…ダンムス!ダンムスのリム!ナイスネーミングですわ」
と、ツボにはまったらしいクリムトをきゃっきゃっさせた。
「なんなのかしら…」
ティータのご機嫌が悪くなるのを感じとるだけの脳みそはあったようで、ハイムがティータに声を掛けようとするが、それに被せてクリムトがにこりと笑い掛けてきた。
「ではあなた、勝負しませんこと?マスターとわたくしで、あなたに負けましたら、本当に奴隷でも下僕でも構いませんわ。でもわたくしたちが勝ちましたら、マスターはわたくしだけのものですわ」
マスターの意向は全く無視の賭けである。
「興味ない」
ぷい…と広間を出ていこうとするティータに、
「そんなあ…ティ…」
と情けない声をあげるハイムがとてつもなく見苦しかった。
「さあ、マスター、わたくしにマスターの純潔を捧げてくださいまし。大丈夫、優しく致しますわ」
クリムトが早朝の情事に挑もうと、ハイムの長シャツを鷲掴みにして部屋へ戻ろうとする。
「えええっ!わあああ…」
おわっ…ハイムが女役に…ええと、剛志の嫁さんが読んでた漫画で…
「ハイム、受ね。お幸せに」
とティータがぶっこんできて、
「ああ、そうだ、受だ」
と俺は朝っぱらの疑問に解決し終止符をつけた。
「ファナ様、そういえばなんて格好で…」
ボサボサ頭で素っ裸の俺に、ティータが慌てて自分の羽織っていた薄衣をファナの身体に掛ける。
「うっ…」
するとハイムがティータの膨らみ始めた胸を見て真っ赤になり、クリムトがムッとした。
「やっぱり、やはり、これは決闘ですわ!マスターを賭けた!」
「ティ…俺のために…」
「自分のため。ダンムスに負けたくないわ」
朝御飯が消化できる頃の時間、玄関前にティータは座り込んでノーパソにキスをする。
「ノーパソ起動。完全リンクスタート」
今回は五匹の尻を使うらしく、ティータとノーパソのリムが発光すると、尻が一斉に上空へ昇った。
クリムトはどこに隠し持っていたのか、ふりっふりの黒のローブを裸体に着こんで、立会人のラビットがその三段がさねフリルに、
「ほう、すごいな」
と感心している。
フードと裾には大振りな三段フリル、それから、腕を出す切り込みにはチュールレースをあしらい、前の結びリボンもふりりとしており、ゴスロリの悪趣味なコートみたいだと、俺は補導したことのある深夜徘徊娘っ子を思い出したりしてあくびをする。
「あー…ルールはティータからノーパソを取り上げる、だな。はい、始め」
尻が大きな目玉を硬質に変えて、高速でハイムにぶち当たる。
反り刃クニミツを使えないハイムは、腕でその光速アタックを防ぎながら防戦一方になった。
「く…前より速いっ…」
「マスター、わたくしをわたくしを使ってくださいましっ!」
「わ、分かった」
「防御できる、この程度の攻撃!見える、見えるわ!」
クリムトが腕を伸ばし光を集めようとする。
「マスター!今です!」
クリムトがハイムの背後から叫ぶと、ハイムが振り返ってクリムトの腰をむんずと掴んだ。
「え?」
「あ?」
「ふんっ!」
「えええっ!?きゃああああ!」
ハイムは物理的に、クリムトを使ったのだ。
ティータに投げると言う技だ。
「遅いわね」
尻三匹がクリムトの腹にぶち当たり、投げた反動で身体を傾げたハイムの顎に容赦なく二匹がカウンターヒットし勝負はついてしまう。
「リムを…投げ飛ばすなんて…わたくしの想像を超えた…お方…マスター素敵…」
馬鹿だろ…お前ら。
ハイムはやはりハイムだったわけだ。
が、これを機にティータに一目を置いたのは間違いなく、クリムトはハイムの部屋に入れてもらった寝台に静かに眠っている。