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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十二章 見知らぬ世界
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見知らぬ世界9

 ループスは誰もいない牢を見ていた薄青の瞳を閉じた。


 ガーランド王国のガーランドとは、国王ガイルの祖父にあたる。


 辺境人シュウとずっと旅をしてきたループスは、ガーランドと親しくなり、客員騎士として領地をまとめる手伝いをしていた。


 シュウとは何度も別れたが繋がりはあり、最終的に死が二人を別つまで、互いの心は寄り添っていたような気がする。


 二人で書いた手習いまで持っていかれたか…。


「ループス様、私は遊撃隊の割り振りをしてまいります」


 ループスが考えていると、ガゼルそれを妨げないように、静かに退出していく。


「頼むぞ」


 目を開くと現実の空間が広がり、別の足音がした。


 辺境牢は四つが全て空になり、一番奥のリムの儀式を行う間がある。


 二十日花(はつかばな)の芽吹きの儀式に連れてこられるリムを待つ間、ミクの話が聞きたかったのだが残念だ。


 ループスがミクのいた牢から離れ、儀式の間に向かうと、


「ループス様、こちらでしたか。今回はリムが一人です」


と、リムの世話役が二人で担架に乗せたリムを降ろした。


「このリムは?」


「チロルハート様付リムのシャールです。もうボロボロですよ」


「チロルハートはよく働いてくれる。リムもその分穢れるのだ。マグルのように儀式を乗り越えてくれるといいのだが…」


 浅い行きを繰り返す巻き毛のリムは真っ黒に爛れた腕をだらりと下げたまま、担架の上で身じろぎもできないでいる。


「それから…申し上げにくいことですが…チロルハート様は自分の欲望を満たすためにリムを…」


 虫の服を羽織る世話役は、老爺と同じように近くの村から働きに来ていて、長年勤めている信頼の置ける者たちだ。


 だからこそ、ループスに意見をしてくる。


「わかっている」


 刻みながら犯すことも、他の者にリムを犯させることも、チロルハートの抜群な戦闘能力故に黙認していた。


 リムは人間でないのだから、仕方がない。


 しかし世話役たちにとっては、少しずつ気持ちが変化し始めたらしい。


「すみません、意見をさせていただき…」


「いや、構わない。遊撃隊長のガゼルにもよく伝えておこう」


「は、はい!ありがとうございます」


 多分、諫めるとは思わないが…。


 あの狂犬のような戦闘能力は生まれついてだろうし、狂犬故の残忍な欲望はあってこその『悪』だ。


「では、クルイーク様を呼んでくる。儀式の準備を」


「はい」


 マントを翻すと太刀が鍔鳴りをして、さらに獲物をと言っているようだった。


「ああ、辺境牢の前の骸骨も片付けておくように。クルイーク様の目障りになる」 


 世話役が息を飲んだ音が聞こえたが、ループスはそのまま立ち去り城上のテラスへ向かう。


 手元の太刀の鍔鳴りは、故郷の地よりも寒く、かの国には似たような空気の中で、軋むように鳴り響いた。


「お前も様変わりをしたな、膝切丸よ。髭切丸がお前を見たらなんと言うやら」


 太刀がループスを笑うかのように、カチカチと鍔鳴りを繰り返しやがて止み、ループスは一人心地呟いた。


「兄上…」

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