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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十二章 見知らぬ世界
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見知らぬ世界7

 ガーランド王国として王国を樹立した後、王命で知る限りの領土に雇った語り屋を向かわせた。


 ループスは書か続けた書記官を労い、白みかけた早朝の空にふとミクを思い出す。


 今までの辺境人とは違う知識を持ち合わせたミクは、とにかく王に気に入られていたし、ループスも知り得た知識に面白さを感じていた。


「辺境牢に行く」


 部屋の隅に控えていたガゼルが頷いて、ループスはマントを翻し地下に向かう。


 夏の残暑が残る城はどうにも息が詰まり、枯れぬ針葉樹の野山を見れば走り回りたくなった。


「懐かしいな…」


 もう昔のことになるのに、そんな自由を謳歌し駆け巡った全てを思い出させてくれる。


「どちらがですか?」


「…ガゼル?」


「どちらもですか?」


 ループスと共にいたガゼルの謎かけに、ループスは目を細めて笑った。


「どちらもだ…そう…どちらも…」


 駆け抜け…そして…


辺境伽(へんきょうとぎ)に聞きたいことがある」


 あれは…どうなったのか…


 敬愛したあの人は…


 その後は…


 気になってしかたがない。


 王の横で控えていたが、多分一番聞いていたのは、ループスだ。


「もちろん…私もです」


 いつも言葉少な目なガゼルも、ふいに苦笑いした。


「ほう…そなたがか?」


「あなた様に付き従う私も、気になるところです」


「ああ。だからこそ、聞きたいのだ。ミクは答えてくれるだろう」


 辺境牢は王城の地下にあり、王の道と呼ばれる特別な通路のみが通じていて、ループスはガゼルを従え地下へと下っていく。


 王のお召し以外にもループスは、辺境伽に会いに行き牢越しに話を聞いていた。


 辺境に伝わる全てを聞きたくて、ただひたすら話をさせ、ただ無言でループスは繰り返し会いに行き渡り聞いている。


 今日もさらに聞きたいと思った。


 ひやりとした空気を感じて、地下への空間へ向かう。


 さあ…あの続きを…世界はどうなるのだ…と。


「ループス様、辺境牢が…」


 ループスは地下の辺境牢の全てが空になっているのに気づき、牢の端でうたた寝をする老爺をガゼルが揺り動かす。


「こ…これは…ループス様…ガゼル様も…」


 明らかに老爺は動揺していた。


「辺境伽はどうした?」


「は…流行り病か…ああ、病気で死にまして、はい、す…捨てました」


「死んだだと?病気で?」


「はい、はい、そうなんです。病気で、は…はい」


 老爺がしどろもどろに話すが、ループスにとってここに辺境伽がいないことが一番の厄介なことで、


「ループス様…牢番の胸元の紐…」


「ああ」


砂金を入れる小さな袋の紐が見え、老爺のにやけた口端と表情から


「まさか…許可なく奴隷売人に引き渡したのではなかろうな」


と、低く呟く。


  


 



 

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