見知らぬ世界7
ガーランド王国として王国を樹立した後、王命で知る限りの領土に雇った語り屋を向かわせた。
ループスは書か続けた書記官を労い、白みかけた早朝の空にふとミクを思い出す。
今までの辺境人とは違う知識を持ち合わせたミクは、とにかく王に気に入られていたし、ループスも知り得た知識に面白さを感じていた。
「辺境牢に行く」
部屋の隅に控えていたガゼルが頷いて、ループスはマントを翻し地下に向かう。
夏の残暑が残る城はどうにも息が詰まり、枯れぬ針葉樹の野山を見れば走り回りたくなった。
「懐かしいな…」
もう昔のことになるのに、そんな自由を謳歌し駆け巡った全てを思い出させてくれる。
「どちらがですか?」
「…ガゼル?」
「どちらもですか?」
ループスと共にいたガゼルの謎かけに、ループスは目を細めて笑った。
「どちらもだ…そう…どちらも…」
駆け抜け…そして…
「辺境伽に聞きたいことがある」
あれは…どうなったのか…
敬愛したあの人は…
その後は…
気になってしかたがない。
王の横で控えていたが、多分一番聞いていたのは、ループスだ。
「もちろん…私もです」
いつも言葉少な目なガゼルも、ふいに苦笑いした。
「ほう…そなたがか?」
「あなた様に付き従う私も、気になるところです」
「ああ。だからこそ、聞きたいのだ。ミクは答えてくれるだろう」
辺境牢は王城の地下にあり、王の道と呼ばれる特別な通路のみが通じていて、ループスはガゼルを従え地下へと下っていく。
王のお召し以外にもループスは、辺境伽に会いに行き牢越しに話を聞いていた。
辺境に伝わる全てを聞きたくて、ただひたすら話をさせ、ただ無言でループスは繰り返し会いに行き渡り聞いている。
今日もさらに聞きたいと思った。
ひやりとした空気を感じて、地下への空間へ向かう。
さあ…あの続きを…世界はどうなるのだ…と。
「ループス様、辺境牢が…」
ループスは地下の辺境牢の全てが空になっているのに気づき、牢の端でうたた寝をする老爺をガゼルが揺り動かす。
「こ…これは…ループス様…ガゼル様も…」
明らかに老爺は動揺していた。
「辺境伽はどうした?」
「は…流行り病か…ああ、病気で死にまして、はい、す…捨てました」
「死んだだと?病気で?」
「はい、はい、そうなんです。病気で、は…はい」
老爺がしどろもどろに話すが、ループスにとってここに辺境伽がいないことが一番の厄介なことで、
「ループス様…牢番の胸元の紐…」
「ああ」
砂金を入れる小さな袋の紐が見え、老爺のにやけた口端と表情から
「まさか…許可なく奴隷売人に引き渡したのではなかろうな」
と、低く呟く。