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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十二章 見知らぬ世界
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見知らぬ世界5

 夕方なのにじりじりとした太陽が照りつけ、ミクは荒い息を吐き出した。


「大丈夫か?お前、半年間牢屋にいても臭くないんだな」


「な…に?」


「俺もあの城にいたから知ってんだけど、でも、辺境人ってあんまり見たことはなかったし…」


 ミクが収監されていた半年は、いたのはミクだけだった。


 複数の監があったと言うことは、過去に辺境人を複数の人数で収監していた名残だろう。


「王と王子に辺境の話を夜な夜な聞かせていたんだよ。だから毎日お湯の桶が来て、学生服の方が辺境らしいって王様が言われて、語るときだけは学生服を着ていた…」


 それももうないだろうが…とにかく、暑い。


 暑さにくらんで、気持ち悪くなる。


「へえ、そうなんだ…王と王子なんて…俺だって会ったことないな」


「拝顔…した訳じゃないから…顔はよく分からない…いつも俯いて話してた」


 ミクを支えるラーンスもまた厚手の黒青のコートを着ており、汗が滴り落ちていて、しかも二人とも水を持っていない。


 早くオアシスにたどり着かないと生命に関わるのだが、ちっとも近くならないでいた。


 歩いても歩いても近くはならないそれは、知識にはあるが、まさか自分が体験しているとは思わない。


 それが現実なのだろう。


 ふ…と、思い出した。


「蜃気楼…?」


「シンキロー…?何…なんだ?」


 ラーンスが息を吐きながら聞き出してくる。


「光の屈折…で、オアシスを映し出しているだけで、あれは…近付かない…」


「幻影かよ…俺も得意だっ…気持ち悪…」


 ミクに肩を貸していたラーンスは口に手を当てた瞬間、嗚咽したと思ったら黄色の液体を吐き出した。


 ミクも頭痛がするし、手足がさらに重くなってきていて、夕方なのに暑さが引かないことが体力を奪っている。


「大丈夫?あの、きみ…」


「ラーンスだ…ってーの、名前…げっ…がはっ…」


 慌ててミクが支え直すが、ラーンスはさらに胃液を吐いて膝をつき、ミクは腕にかかってしまったが、しっかりと支えた。


「ごめ…駄目だな~…俺」


「だめとか、言わない。立てる?」


「立てない…」


 辺りが薄暗くなってきたが、木陰もなければ岩場もない。


 実はミクも足が震えて動けないでいた。


 保健体育で習った『熱中症』を思い出す。


 だが、水分も塩分も、薬局でおすすめの経口保水液だってない。


 ミクは崩れたラーンスに膝を貸して、砂漠の中に座り込んだ。


 ジョバンニには悪いけど、もう動けない。


 ミクは生きられない気がして、でも、悔しかった。


 日が暮れて見渡す限りの白い砂ばかりに、信じられないほど大きな満月が浮かび、青白い光を放っている。


「え…?」


 何やら音がした。


 知っている音だが、誰が弾いているのか。


「音が…する」


 ラーンスは既に意識を失い、浅い息を繰り返しているだけだ。

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