見知らぬ世界5
夕方なのにじりじりとした太陽が照りつけ、ミクは荒い息を吐き出した。
「大丈夫か?お前、半年間牢屋にいても臭くないんだな」
「な…に?」
「俺もあの城にいたから知ってんだけど、でも、辺境人ってあんまり見たことはなかったし…」
ミクが収監されていた半年は、いたのはミクだけだった。
複数の監があったと言うことは、過去に辺境人を複数の人数で収監していた名残だろう。
「王と王子に辺境の話を夜な夜な聞かせていたんだよ。だから毎日お湯の桶が来て、学生服の方が辺境らしいって王様が言われて、語るときだけは学生服を着ていた…」
それももうないだろうが…とにかく、暑い。
暑さにくらんで、気持ち悪くなる。
「へえ、そうなんだ…王と王子なんて…俺だって会ったことないな」
「拝顔…した訳じゃないから…顔はよく分からない…いつも俯いて話してた」
ミクを支えるラーンスもまた厚手の黒青のコートを着ており、汗が滴り落ちていて、しかも二人とも水を持っていない。
早くオアシスにたどり着かないと生命に関わるのだが、ちっとも近くならないでいた。
歩いても歩いても近くはならないそれは、知識にはあるが、まさか自分が体験しているとは思わない。
それが現実なのだろう。
ふ…と、思い出した。
「蜃気楼…?」
「シンキロー…?何…なんだ?」
ラーンスが息を吐きながら聞き出してくる。
「光の屈折…で、オアシスを映し出しているだけで、あれは…近付かない…」
「幻影かよ…俺も得意だっ…気持ち悪…」
ミクに肩を貸していたラーンスは口に手を当てた瞬間、嗚咽したと思ったら黄色の液体を吐き出した。
ミクも頭痛がするし、手足がさらに重くなってきていて、夕方なのに暑さが引かないことが体力を奪っている。
「大丈夫?あの、きみ…」
「ラーンスだ…ってーの、名前…げっ…がはっ…」
慌ててミクが支え直すが、ラーンスはさらに胃液を吐いて膝をつき、ミクは腕にかかってしまったが、しっかりと支えた。
「ごめ…駄目だな~…俺」
「だめとか、言わない。立てる?」
「立てない…」
辺りが薄暗くなってきたが、木陰もなければ岩場もない。
実はミクも足が震えて動けないでいた。
保健体育で習った『熱中症』を思い出す。
だが、水分も塩分も、薬局でおすすめの経口保水液だってない。
ミクは崩れたラーンスに膝を貸して、砂漠の中に座り込んだ。
ジョバンニには悪いけど、もう動けない。
ミクは生きられない気がして、でも、悔しかった。
日が暮れて見渡す限りの白い砂ばかりに、信じられないほど大きな満月が浮かび、青白い光を放っている。
「え…?」
何やら音がした。
知っている音だが、誰が弾いているのか。
「音が…する」
ラーンスは既に意識を失い、浅い息を繰り返しているだけだ。