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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十二章 見知らぬ世界
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見知らぬ世界4

 ガーランド王国の船着き場から見えた景色はまるでヨーロッパの農村風景だったが、北の断崖を迂回し西の船着き場へと向かう風景は明らかに違った。


 見える世界が乾いていた。


 木々の生えているところはまばらで、しかもすなばかりに見える。


「砂漠…」


 ミクの呟きに、同じように座り込んだラーンスが金の頭を横に振りながら答える。


「西は砂の世界だ。さらさらの砂とわずかな水だけでは、リムは太刀打ち出来ない。リムが唯一生まれない地域で、リムを必要としない。ただ、必要なのは働き手だ」


 だから…奴隷…。


 焼き印は奴隷の証だ。


「さあ、西の地に着いたぞ。よく働けよ、お前たち」


 一日ほど乗っていた夕方近くに、川岸に付ける気配がしてきて、ミクは緊張する。


「お前たちを引き取りたくててぐすね引いてやがる。おい、お前は幾つだ?」


 奴隷商人が手揉みをしながら、川岸に集まる幾人かに手を振った。


「じゅ…十五…です」


 ミクがそう告げると、


「辺境人、成人してるな。お前は繁殖用だな。値を釣り上げられるぞ」


奴隷商人がにやにやとミクを舐め回すように見てから、人数を数え始める。


「ミク、同じ年か…。なあ、着いたらすぐに走る」


「うん」


 ラーンスは剣を取り上げられているが、ブーツに一本小さな剣を隠し持っていると囁いて、ミクは何度も頷く。


 学生服がひどく暑い…陽射しがガーランド王国とは違い厳しい気がした。


 亀のマルクルごと船が砂地に乗り上げ、檻のような丸木板が外されて、奴隷商人がまだ気絶したままの子どもを抱き上げる。


 ジョバンニがミクとラーンスを両手で抱え挙げると、


「演技をする。その隙に一番近いオアシスまで走れ。生きていたら、また、会おう」


そう低い声で言い放ち、亀の甲羅から飛び降りると叫んだ。


「い…いてえ!お前ら!」


 手が離され、とん…と背中を押され、ミクは運動靴で踏ん張り駆け出し、ラーンスがその後を追ってくる。


「あ、待て!おい!」


 ジョバンニがすかさず巨体を転がるように、


「いてえようっ!」


と毛深い腕を振り回しながら地面に転がり、奴隷商人が追いかけるのを防ぎながら、


「噛みつくなんて、奴等獣以下だ!。躾がなってない!モフルーを噛むなんて、東の!なんだあれは!」


とケチまでつけ始めた。


「え、あの…モフルーの旦那。奴等噛んだんですか?」


「ああ、モフルーの毛腕に思いっきりな。躾が悪い!奴隷にはならんぞ、あの悪ガキは!」


 動揺した奴隷商人がおたおたと腕を無意味に振るなかで、ミクはその演技の怒声を聞きながら走り続け、誰も追っ手がないことを知ると、後ろから付いてきたラーンスに振り返る。


「もう…はあっ…はっ…追っては来ない…」


「おまっ…え、足早いって…」


 しかしミクは急に足が重く感じ始めて、かくん…と膝をついた。


 両足が…膝が震えて立てないのだ。


「あっ…」


 半年…収監され萎えた薄い筋肉が悲鳴を上げ、瞬発だけだったことを物語る。


「ミク…歩けるか?」


「う…うん…」


 ラーンスの肩を借りてなんとか炎天下の砂漠を歩き始めて、何とかオアシスがおぼろげながら見えてきた。

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