表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十一章 流血のクリムト
121/226

流血のクリムト10

 剣を抜くとそれを床に突き立て、怒りの矛先をこの建物に向けた。


「う…おおおおおっ…!」 


 うなり声を上げて怒りを解き放つ。   


 部屋の中に空気の振動が走り、チリチリとした光が反射しスパークを始めると、クルイークの美しい髪が逆立った。


 雷の神がいるとするならば、今の僕だ…。 


 強烈な怒りが雷鳴となり、発光したクルイークは剣を天井に向けた。


 ドォォ……ンッ…と激しい爆裂音と共に、瓦礫すら吹き飛ばす閃光は、夕暮れの辺りを白い光に染め上げ、白亜のドームに大きな穴を空ける。


「クルイーク様!」


 リムが慌てて近寄ろうとしたのを制し、クルイークは深い息を吐いて剣を鞘に収めた。


「気を煩わせたな。気にしなくともよい。ただの癇癪だ」


 まだパリリ…と発光した球体を纏わせるクルイークは、真っ赤な夕日を浴びてドームの半分ほどをぶち抜いた瓦礫の中から現れる。


 その姿はまるで人にはあらず、立ち上る光の柱を見たガーランド王国軍の一人から声が上がった。


「雷神クルイーク様、万歳!」


 それはアーディーロの声であり、そこから一気に万歳とうねるように声が上がる。


「ガーランド王国、万歳」


「モルニティ教、万歳」


 二百を数える人々の前で、まだ雷を帯びたままの剣を抜き放ち、クルイークは叫んだ。


「奈落を凪ぎ払い無血占拠を果たした我々は、只今よりガーランド王国に凱旋する!この勝利を父王ガーランドに、そして我が母女神モルニティに捧げる!」


 万歳のうねりは叫びとなり一体化し、口々にクルイークが感じているだけの空虚な勝利を称えあい帰路に付く。


「これが…力か…これが…支配か!」


 ただの鬱憤ばらしだったが、それがこうして群衆の心を掴み、クルイークは高揚していた。





 これを機に加速的にモルニティ教は広まり、ガーランド王国の軍門に下った領主は、教団に砂金を寄進した。


「忠誠をガーランド王国に、御心を女神モルニティに」


 リムを得るためには砂金が必要だが、今までと違うところは、確実にリムを得られるということだ。


「騎士アーディーロに、黒のリムを授けよう。名をリリフと言う」


「は、ありがたき幸せ」


 地位とリムを与えられ、王国騎士として砂金を得て闘い生き、土地とリムを与えられ、王国領地で搾取をされつつも豊かに生きる。


 どちらも、モルニティ教の下で行われた。


 全てのリムはモルニティ教大神官クルイーロの元にあり、リムがマスターを選ぶのではなく、仮のマスターに貸し与えられる。


 モルニティ教という後ろ楯を持ったガーランド王国は、更に南へ進撃をしていく準備を始め、アギト川対岸の北国ジュリアス王国、グランディア王国はそのままに、戦乱支配へと向かっていった。


 モルニティ教がリムを庇護下に置くというのは、リムを家畜以下に見ていた人々の意識を変えたが、リムを使役物として扱うこととなり、リムに唯一残されていた『主を選ぶ』ことを消失させたのだった。


 そのリムを活用できない乾いた地を持つ西の地は、ガーランド王国からの侵略は免れ、なおかつモルニティ教に甘んずることなく独自の統一戦線へと向かっていく。


 小さな世界は混沌に向かっていた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ