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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十一章 流血のクリムト
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流血のクリムト9

 奈落を焼き尽くしてたどり着いた白の楽園は既にもぬけの殻で、ガーランド王国軍の司令塔であるクルイークは明らかに敗北を感じていた。


 見つけられたのは白いドーム型の中心にある、白い大きな繭だけ。


 目の前にあるそれをぼんやりと見上げていた時、放っておいた伝令の一人が早馬でやって来たと、クルイークにあてがわれたリムがクルイークに告げてきた。


「通せ」


「はい」


 クルイークは伝令の足音に振り向き、無言のまま聞き入れる。


「クリムト領地より伝令!領地内にてガーランド王国遊撃隊がリムを確保。同時に近隣にてリム狩りを開始」


 矢継ぎ早に更に伝令がやって来る。


 それはクルイークが放ったものではない。


 遊撃隊に属する男だ。


「ガーランド王国遊撃隊、クリムト領地より離脱。王国軍も撤退願います」


「な…に?どう言うことだ」


 野盗風の遊撃隊伝令者は顔を上げずに、 


「クリムト領地内にて、白の楽園より逃走したリムを確保。のちクリムト領地内を奇襲、グランツならびに領主は捕縛ならず。しかし、当初の目的のリム狩りは遂行したと、ガゼル隊長より申し使っております」


と告げる。 


 つまり…総勢二百を数えるガーランド王国軍は飾りであり華やかな囮であり、ガーランド王国遊撃隊が本命であったと言うのだ。


「総指揮は父と言うわけか…」


「聞き及んでいません」


「遊撃隊の業務を話せ」


 伝令は一瞬息を呑み、それから息を吐きながら、


「……全てのリムを狩り出して、クルイーロ様に届けるように王命を受けていると聞いております」


と首を垂れたまま告げる。 


 大神官クルイーロの言うグランツも一緒に捕縛…と言うのは、どうやら聞き及んでいないらしい伝令に、褒美の砂金袋を渡して返した。


 付け焼き刃の軍隊を信用してはいなかった父が選んだのは、王が完全に掌握している直属の遊撃隊だというわけだ。 


「父上は何を考えている…?」


 仲の良いとはいえない親子関係だが、王を取り巻く一人として、唯一の息子として父を理解していたつもりだった。


「クルイーク様…」


 控えていたリムがためらいがちに、声を掛けてくる。


「楽園無血占拠を告げ、ガーランド王国軍凱旋と光伝達をしろ。全ての国に拡散しろ」


 光が届く全てにこの無様な勝利を知らしめなくてはならない。


 ガーランド王国のために…新たなる世界の幕開けのために。 


「はい」


「リムを独善的に管理し、利己的に我々に授けていた楽園は消え去り、新たにモルニティ教の大神官が平等に統べる。平等にリムが与えられ繁栄する世界がやって来る、と」


 リムは黒のローブを深く被り、


「かしこまりました」


と幼い声で告げて出ていく。


「しばらくここに誰も近付けないように」


 頷いたリムを見送り、クルイークは耳の真っ赤な玉飾りに触れた。    

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