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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十一章 流血のクリムト
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流血のクリムト8

改稿済

「ティータ、ランクルに先に乗って。ランクル後ろを倒してくれ」


 ランクルの後部座席が変形し寝台のように広くなると、ティータの小さな膝にハイムの頭を乗せて、ファナがハイムの身体を横たえた。


ファナに言われてクリムト領主屋敷に結集させていた尻を、再び索敵に放すティータの手元にはノーパソがいて、まだティータの仕事は続いているのだ。


「膝枕、薬が効くまでな」


「重いわ、ハイム」


「ティ、ごめ…」


「黙りなさい、下僕」


 そんな小さなやり取りがハイムには嬉しかったりするが、そこに血塗れの白服の女領主が疲れ切った様子で連れてこられる。


「テオのところまでご一緒頼む。ティータよろしくな」


「おい、ファナ君」


「あ、はいはーい」  


 どうやらファナはエバグリーンとその仲間たちと話をしている最中さいちゅうのようで、ハイムは不甲斐なくて堪らなかったがいかんせん身体が動かないのだ。 


「すみません、ご一緒しますわね」


 ランクルの中に疲れ果てた女領主は、ぐったりとしつつも気丈に微笑んだ。


「あら、膝枕ですの?」


「ファナ様に言われただけよ。ハイムは馬鹿なのに、頭重いわ」


「ごめん…」


「謝らないで」


「ごめん…」


「あの、あなた、ハイム様とおっしゃるのね。…あの…助けていたただき…ありがとうございました…」


 女領主が疲れついてもなお美しい容貌でハイムを見下ろし、深々と頭を下げた。


「あ、いや、俺は…」


 顎で丸く切り揃えた横髪の後ろが長く金と茶のメッシュになっていて、面白い髪型だなと見上げていると、ヘイゼルの瞳からはらはらと涙を溢す。


「あ、あのっ…クリムト領主様、泣かないでくれ。もうじき馬車が…そうしたらジュリアス王国に行こう」


喋れるくらいになったハイムが慌てふためき、重苦しい空気になりつつあるランクルの運転席と助手席が開き、ファナとエバグリーンが乗り込んできた。


 ランクルの中はぎっしりという感じになり、ファナがハンドルを握ると、スターターの名残を押す。


「とりあえず、ジュリアス王国に向かうぞ。クリムト領主様、道すがらで構わないから、状況を教えてくれ」


 ファナの問いかけにクリムト領主は戸惑いを見せたが、


「クリムト領地で保護されるはずのリムを、私たちは失ったのだ。教えてほしい」


と話すエバグリーンの言葉に、クリムト女領主は涙をこらえ目頭を押さえる仕草をすると、


「あっと言う間でした…」


と、答えた。 


 焼け野はらに荷馬車が三台幌馬車が一台と、ランクルが走り出す。  


「ティータ、索敵」


「もちろん、やっているわ。それよりも少し早く走った方がいいわ。ガーランド軍がクリムト領に侵攻を始めているもの」


「わかった。ゆっくりとした風を背後から出すから、ランクル、速度を早めるぞ」


 ファナ自身もリムで、ティータのマスターでもあるから、ファナの横で目を瞑る重吾に対して、ハイムはさらに少し悔しくなる。


 ファナもティータも辺境人の重吾のリムであり、ハイムはなにもないのだ。

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