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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十一章 流血のクリムト
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流血のクリムト7

改稿済

 埋まりながら、ハイムは自分の未熟を感じていた。


逃げ足のガゼル…西でもあちこちで聞いてきた名前だった。


 痩身の老人のような深い皺を蓄えた顔に、上背のある長身、銀髪のようだが白髪のようでもある容貌。


 しかしそれよりも、必ず逃げる道を作っていることだけが噂となり、周囲に広まっているらしい。


 容貌に見合わぬ剣技は、かなりの手練れだったが、女剣士を担ぎ上げたガゼルの動きの緩慢さが、ハイムの慢心を誘った。


 突出したのは自分のミスだが、その、隙を作ったのは間違いなくガゼルだ。


「くっ…」


 ハイムは自分を肉饅頭のように囲む狭い空間の隙間から落ちてきた石で額を打ち、その血が目に入りぼんやりとした視界の中で、徐々に明るくなっていくのを感じている。


 動けないでいた。


 いや…それだけではない。


 身体が痺れるそれは、多分毒だ。


 ガゼルに担がれて気絶していたはずのチロルハートの唇が歪み、そして接吻をするようにすぼまった瞬間、ハイムはジューゴの前に躍り出た。


 チロルハートがふっ…と吹き、首に当たったそれは毒針だったのだろう。


 妙に身体が妙に痺れ、意識が朦朧とする。


「ハイム、大丈夫か!」


「おう…さま…」 


 明るい光の滲み中のファナの上には、太陽の光が差しまるで王冠のように輝いて見えた。


 それだけではない。


怒り顔のティータ、胸の豊満の緑髪女、横髪だけ長い青髪女と、赤髪、そして安堵したと言った表情の中年の黒女が、見下ろしてハイムにに声をかける。


「今、動かすぞ、君」 


 中年の男が腹の上の石を横にどかし、しかし、ハイムは横倒しになったまま動けないでいる自分に恥じた。


「大丈夫か?山蛇(ガールーダ)の毒か」


 ファナがハイムの顔色や様子を見て、ラビットバスケットを持って来ると言う前に、既にティータが抱えており、


「馬鹿…」


と、消え入りそうな声でハイムに呟く。


「ティ…」


 動けないままでハイムは、ティータに視線だけ送った。


「馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿!」


「え、ちょっ…」


 ティータがファナにバスケットを渡すと、小さな手でハイムの頬を包み込むようにぱちんと叩いてくる。


「三本目はハイムの目を狙っていたわ。尻の筐体硬化で何とかしたけれど、もし、間に合わなかったら!」


 ぐらりと身体が傾いだ瞬間、ハイムの顔面を覆った黒い物体は、尻だったらしい。


「馬鹿ハイム、本当に馬鹿でど変態っ!」


 くるりと後ろを向いてしまったティータを情けなく見上げていると、ファナが瓶の中の液体を口に流し込んで来た。


「おう…さ…げほっ…」


 舌が痺れて嚥下出来ないでいると、


「ファナ様、貸してほしいの」


ティータがハイムの顔近くに来て口に液体を含むと、ハイムの口を塞いだ。


「うっ…」


ティータに舌で舌を押されて喉の奥に液体を流し入れて来て、喉を力無く通過する。


「緊急措置よ。お馬鹿さん」


真っ赤になったハイムからふい…とティータが立ち上がって尻をまとめ上げているのを情けなくも動けず横目で見た。


「ハイムをランクルに乗せる。ティータ、おいで」


 ハイムは小さなファナにひょいと抱き上げられると、まるで新寝屋(にいどこ)に誘われる花嫁の如く、ランクルに連れて行かれた。


「本当に馬鹿なんだから…」


 ティータがハイムの服を掴んでついてくるそれが、ハイムには嬉しかったりする。


 しかし心配していた風体のティータには、口が割けてもそんなことは言えない。


 そこまで馬鹿ではないハイムは


「ごめん、ティ」


 と、自分の未熟さをティータに謝った。

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