流血のクリムト4
改稿済
ハイムが壮年に体当たりをしようとして身を屈めた瞬間、俺はハイムの横に来てふーっと深い息を吐く。
「すまない、王様。剣が折れた」
「風穴に落ちてた日本刀、国光をやる」
「は?」
「越後国光起造之 って書いてあるんだもん。多分ノーパソに聞いたらやっばい人が出てきそうたがら、とりあえず国光ってことで」
「クニミツ…」
俺は懐から小刀を出す鞘を外して重吾の血を垂らし、それが輝き始めたのを確認してからハイムに渡した。
「ハイムのイメージする長刀は?」
ハイムが手にすると、先程までレイピアにやられてふらふら飛んでいた尻がハイムの肩に乗る。
あの尻もこの尻もティータであり、あちこちでティータに見つめられているならば、いっちょかっこいい…なんて考えてないだろうな。
「おわっ!ハイム危ないっ…」
ぐんっ…と伸びたクニミツは、俺の頭に剃り込みを入れそうになり、ファナの金髪を二、三本切ってから長刀の反り刃となった。
「男は反り刃!」
太々しい赤光りするのはともかくとして、その型は先端が広く持ち手が細い辺境では『蛮刀』だとか『トルコ刀』とか言われる剣だ。
「はあ?おまっ、セクハラで逮捕するぞ!ったく…シャムセールかよ…日本刀がなあ…」
中近東の細い反り刃を思い起こさせるそれは、赤錆輝きを持った意思のある剣で、ハイムの思いを受け止めた形だ。
銘はくっきり辺境ならではだが、ハイムにとっては模様に過ぎないのだろうが、俺は非常に複雑な気持ちになる。
「まあ、変化したんなら、相性はよさげだな」
そんなに時間はかけていないつもりだが、かなりの隙があり俺は相変わらず露出度の高い女…チロルハートにレイピアを向けられていた。
「相変わらず布が少ないな、十円チョコさんは」
義理チョコ風味ってか?俺はコーヒーヌガー派だ。
「は?何言ってんだよ、メスガキリムが!」
チロルハートの剣を受け止めた俺は、その切っ先を受けないように遠ざけたティータに目線を向ける。
ランクルの中のティータが頷いて小さく手を組んで、祈るようなポーズを取った。
猫耳のポンチョがピンとして可愛いなと思っていると、
『あ、あー、もしもし、ジューゴ君、間に合ったよ~』
間延びした海の声が尻から聞こえてきて、俺は脱力する。
ガゼルと剣を交えたハイムがジリジリ押されて来ているのが分かるが、ティータのための時間稼ぎが必要だ。
「海さん…こっちは…戦闘中で…っ」
ハイムがガゼルに力負けをして吹っ飛ばされてきて、俺にクニミツが降って来る。
「おわっ…!」
「おまっ!ハイムあっぶねえ…。で、クリムトに…来てもらえると助かりますっ」
「大将っ…すまない。あいつ…なんか…変に強い…!」
痩せた銀髪は無表情で、ただクリムト領主を狙うハンターのような視線を送っていた。
「…もう、馬車のリムもいないし、外の野焼きもパフォーマンスか…領主を捕らえて、こんな外れを領地にするつもりか?…ガゼルさんよ」
クリムト女領主は領民の血が飛び散った白を纏い、既に事切れた老人を抱き締めている。
「主がガーランド王国に協力しろ…と言うのでな」
チロルハートの渾身のレイピアをブーツで蹴り上げると、チロルハートの背後に回り込み、手刀を首にめり込ませ気絶させると、最後の一人になったガゼルに向き直った。
「チロルを殺さないのか、偽善者が。その女は狂戦士だ。生かしておけば、犠牲者が増えるぞ。リムよ」
「まあ、そうなんだけどさ…あんた…チロルハートは捨てないじゃん?あんたへの足枷みたいな?」
「先見性があるな…貴様…」
ティータの動きが変化する。