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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十章 大乱闘デルタフォース
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大乱闘デルタフォース7

改稿済

 厨房と食堂はひとつのスペースで、外のテラスデッキでも食べられるように工夫したそこは、カウンターで分けられている。


 カウンターの中が厨房となり、広めに取ったそこには、兎肉が置かれていた。


「師匠のシチューほどは美味くなかろうが作ろう」


 シャルルが器用に兎を捌いていくのを、踏み台を持ってきたティータが塩揉みをする。


「あ、ノーパソ、音声データをお願いするわ」


 汚れていない手でカタカタとキーボードを動かすと、


『了解』


と文字が出て、ガーランド王国の朝の喧騒が聞こえて来る。


「すごいな…ティータは」


 シャルルの感嘆にティータは真っ赤になってから、


「ファナ様のお陰…」


と呟いた。


 なんだが嬉しくなった。


 シャルルは隣の国の王子なのに、まるでティータを普通の子どものように話してくれる。


 ハイムもそうだ。


 今まで見てきた人たちとは、少し…違う…。


「ファナか…ファナの昨日の話、ティータはどう思うのだ?」


「私、リムだから…わかるわけな…」


 指で額を突っつかれ、ティータは小さな悲鳴を上げた。


「か、ん、が、え、ろ。少しでも多くの意見がほしい」


「そうね…」





 昨日の夕方の事だ。


 剣術指南が終わった後、泥だらけで風穴(かざあな)から帰宅したファナに、シャルルが戦いを仕掛けたのだ。


 不意打ち模擬戦だった。


 ランクルから降り立ったファナ目掛けて、丸木刀を降り下ろしたシャルルだが、小さな身体のファナはトンファで軽くいなし、不思議な構えからシャルルをふわりと投げ飛ばしたのだ。


 そしてその後、何事もなかったかのように荷物を降ろし始める。


「くっ…まだだ!」


 毒が完全に抜けると鍛練を欠かさずに来たシャルルは、転がった態勢を整え地を蹴り出して、ファナの脇に入り込む。


 深い場所から長剣が無理なのは分かっていたから、そのまま腰に差していた短剣を右手に持ち返え、顎を狙おうとしたのだ。 


「っ…え…?」


「シャルル、動きが見え見え」


 ファナの肘で短剣を跳ね上げられ飛ばされてしまい、シャルルは呆然として立ち尽くす。


 ファナがそんなシャルルをちらりと見て息を吐くと、またまた今度は死体の重吾をランクルから降ろして、屋敷に戻ろうとしていた。


「なぜ、とどめを刺す行動を取らない!お前の動きは基本防御だ」


 赤子のようにあしらわれ、悔しくて思わず叫ぶと、ファナがゆっくりと振り向いて言い放ったのだ。


「闘わない。専守防衛、俺と俺の国のやり方だ」




 

 塩で揉んだ兎肉をフライパンで焼いてから、香草を入れて水から煮込み始める。


 フライパンに水を入れた音で我に返ったティータは、シャルルを見上げた。


 シャルルもティータと同じように、悩んでいるように見える。


「ファナ様の言うことは、正しいわ」


 フライパンの肉を寄せていたシャルルが、ティータを見下ろした。


「…そうか…」


「でも、理想論よ」


「なに?」


「守って防ぐ、それも闘い。だけど、それでは敵は減らないわ」


「なるほど…」


 シャルルかなにか考え込んでいて、煮込みに付け合わせるパンを作る。


 時間のかかる発酵のいらないパンは、フライパンで焼ける。


 それはノーパソが教えてくれたやり方だが、兎シチューは少し難しいので、ティータにはまだ作れない。


 スパイスの配合が難しいのだ。


「確かにさあ…理想論だけどな」


 眠たそげな声に、ティータは振り返る。  

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