大乱闘デルタフォース7
改稿済
厨房と食堂はひとつのスペースで、外のテラスデッキでも食べられるように工夫したそこは、カウンターで分けられている。
カウンターの中が厨房となり、広めに取ったそこには、兎肉が置かれていた。
「師匠のシチューほどは美味くなかろうが作ろう」
シャルルが器用に兎を捌いていくのを、踏み台を持ってきたティータが塩揉みをする。
「あ、ノーパソ、音声データをお願いするわ」
汚れていない手でカタカタとキーボードを動かすと、
『了解』
と文字が出て、ガーランド王国の朝の喧騒が聞こえて来る。
「すごいな…ティータは」
シャルルの感嘆にティータは真っ赤になってから、
「ファナ様のお陰…」
と呟いた。
なんだが嬉しくなった。
シャルルは隣の国の王子なのに、まるでティータを普通の子どものように話してくれる。
ハイムもそうだ。
今まで見てきた人たちとは、少し…違う…。
「ファナか…ファナの昨日の話、ティータはどう思うのだ?」
「私、リムだから…わかるわけな…」
指で額を突っつかれ、ティータは小さな悲鳴を上げた。
「か、ん、が、え、ろ。少しでも多くの意見がほしい」
「そうね…」
昨日の夕方の事だ。
剣術指南が終わった後、泥だらけで風穴から帰宅したファナに、シャルルが戦いを仕掛けたのだ。
不意打ち模擬戦だった。
ランクルから降り立ったファナ目掛けて、丸木刀を降り下ろしたシャルルだが、小さな身体のファナはトンファで軽くいなし、不思議な構えからシャルルをふわりと投げ飛ばしたのだ。
そしてその後、何事もなかったかのように荷物を降ろし始める。
「くっ…まだだ!」
毒が完全に抜けると鍛練を欠かさずに来たシャルルは、転がった態勢を整え地を蹴り出して、ファナの脇に入り込む。
深い場所から長剣が無理なのは分かっていたから、そのまま腰に差していた短剣を右手に持ち返え、顎を狙おうとしたのだ。
「っ…え…?」
「シャルル、動きが見え見え」
ファナの肘で短剣を跳ね上げられ飛ばされてしまい、シャルルは呆然として立ち尽くす。
ファナがそんなシャルルをちらりと見て息を吐くと、またまた今度は死体の重吾をランクルから降ろして、屋敷に戻ろうとしていた。
「なぜ、とどめを刺す行動を取らない!お前の動きは基本防御だ」
赤子のようにあしらわれ、悔しくて思わず叫ぶと、ファナがゆっくりと振り向いて言い放ったのだ。
「闘わない。専守防衛、俺と俺の国のやり方だ」
塩で揉んだ兎肉をフライパンで焼いてから、香草を入れて水から煮込み始める。
フライパンに水を入れた音で我に返ったティータは、シャルルを見上げた。
シャルルもティータと同じように、悩んでいるように見える。
「ファナ様の言うことは、正しいわ」
フライパンの肉を寄せていたシャルルが、ティータを見下ろした。
「…そうか…」
「でも、理想論よ」
「なに?」
「守って防ぐ、それも闘い。だけど、それでは敵は減らないわ」
「なるほど…」
シャルルかなにか考え込んでいて、煮込みに付け合わせるパンを作る。
時間のかかる発酵のいらないパンは、フライパンで焼ける。
それはノーパソが教えてくれたやり方だが、兎シチューは少し難しいので、ティータにはまだ作れない。
スパイスの配合が難しいのだ。
「確かにさあ…理想論だけどな」
眠たそげな声に、ティータは振り返る。