大乱闘デルタフォース6
改稿済
「ん…」
丸い月が青白い光を放つその時間が過ぎると、生命を感じる温かな光が差し込み木々が輝き始める。
小さく丸くなって寝ていたティータは、まぶたを開いた。
白の楽園にいるときは、そんな世界の輝く瞬間が唯一ティータの心を揺らすから、誰よりも早く起きて木の下から光の瞬きの木漏れ日を眺めていたものだ。
今はファナの横から這い出てぺたんと座り込み、窓から溢れる光を全身に浴びて、死体の重吾とその横で大の字に近い姿で眠るファナを見下ろす。
睡眠時間が短いとあんま背が伸びないぞ。
と、ファナがあまり背が伸びないティータのおでこをツンツンと触れながら話すと、近頃はファナと背比べをさせてきた。
確かに差がまだあるが、ファナがそんなことは関係ないんだと笑ってくれたのが嬉しかった。
大きな寝台から降りると裸体に虫の布の薄いショールを掛けて部屋の机の上のノーパソを抱え、隣の広間の隅に座りノーパソを開けた。
「おはよ、ノーパソ。データは?」
ノーパソのリムの紋章に重吾の血を一滴掛けると、画面に『おはよう、ティータ』と文字が出る。
毎日起動の前の一滴は同期している尻全てに作用するらしく、
「ガーランド王国の夜半、動きはないわね」
夜中から明け方まで元気に活動する尻の音声データはすべて文字化されていて、文字の読み書きが怪しいファナに読んで聞かせるのが、ティータの朝の仕事だ。
カタ…と音がして増設した客間の方を振り向くと、光に淡い髪が透けるまるで人ではないような…人ではあるが…がこちらに向かってくる。
朝の温かな光を編み上げたような美しいシャルルが、
「早いな、ティータ」
と、虫の布の長めのシャツを羽織ったまま現れた。
「おはようございます、シャルル様」
「おはよう。テオが横にいないとなんだが不自然で、早く目が覚めてしまったのだ。ティータ、朝から仕事か?」
ノーパソを見ていたティータが頷くと、
「あまり無理をしてはない。子どもはまだ寝ている時間だ」
と柔らかく笑う。
それがあまりにも美しすぎて、ノーパソが教えてくれた『神』とはこのような姿なのかと思った。
二十日花の真ん中、剣術指南役のラビットが来ないため、シャルルは五人ばかりの新人騎士と傷の癒えた楽園騎士長を連れてきて、指南を受けている。
「さて、暇だな…朝の飯仕度でもしよう。ティータ手伝え」
「ええ、では、これを…」
腕捲りしたシャルルにティータは、ふりっふりのエプロンを手渡した。
「え!俺にこれをつけろと…?」
ティータはこっくりと頷く。
「料理長が言っていたわ。厨房は何人たりともエプロン、と!」
ショールをはだけて素肌にエプロンをつけるティータの厳かな迫力に負けて、シャルルがシャツを脱いでエプロンを着たのだ。
「え?」
驚くと自分の姿を、シャルルが指差した。
「それが礼儀作法なら仕方あるまい」
シャルルがシャツを脱ぎ、素肌にエプロンを纏うが、少し短めで見えそうで見えないギリギリのラインを醸し出している。
「では、厨房へ。シャルル様」
ジュリアス王国の重鎮、王の右腕であり銀の聖騎士であるシャルルだが、リムと一緒に育ったためかそこいらの常識が欠落しており、リムと同じことをすることになにも厭わないでいた。