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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第十章 大乱闘デルタフォース
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大乱闘デルタフォース1

改稿済

 エバグリーンは奈落から煙が上がるのを見て、馬車の荷台に飛び乗ると、山本が幌張りのキャラバンに納まるのを確認し、二頭の手綱を持つ加藤に声をかける。


「掴まれ、エバグリーン」


 加藤はニヒルに口端を歪めて、手綱をぴしゃりと鳴らして馬車を走らせた。


「おっ…と…」


 エバグリーンは思わぬスピードに驚き、荷台に掴まる。


「リムの馬車を追いかけんといかん。このままギャロップだ」


 意外にも若々しい様子の加藤に、エバグリーンは自分より年が若いのにじじいをよくもまあ装っていたなあと訝しげになったがあえて聞かないようにした。


「エバグリーン、虫は…モスはそのままか?」


 周囲に気を配っていたエバグリーンは加藤の言葉に頷き、風に乱れた髪を押さえる。 


「繭になってしまいましたから。動かせませんし…あとは…わかりません」


 無事に羽化して飛び出せるよう、開けられる扉は全て開けてきたが、ガーランド王国軍が乗り込んで来た時にどうなるか。


 そして斜め背後の奈落の煙はあっという間に本数がたち、思っていた以上に苦戦を強いられたことが伺わせられた。


 あの子達…騎士には…生きていてほしい…。


「エバグリーン?」


「…大丈夫です」 


 エバグリーンがふと視線をずらすと、この世界の現実を見てしまう。


 下草の短い道が続き家屋もまばらな場所は、普通の一家が開墾した土地で精一杯生きているところだ。


 余裕もなく苦しい日々をなんとか生きているような人々には、リムを得るための砂金を支度することも出来ず、ただ口糊を凌ぐだけに働き続ける。


 王国樹立などという、華やかなイベントの影に見え隠れする本来の貧しさ。


 通りすがり畑を耕す老婆を見かけて、辺境に残してきてしまった母の姿に重ね、エバグリーンは関与してはならないとした不文律を忘れてしまいそうになる。 


 …それも、もはや無理な話になってきたが。


 山本が呟いた、


『もはや、これまでか…』


が、何に対してか分からないが、山本は日下から全てを聞いた一人だ。


 エバグリーンはちらりと隣の加藤を見た。


 そして、ここにもう一人。


 加藤は日下とは仲が良く、黒の楽園で良く話し込んでいたのをエバグリーンも知っている。


 元々楽園はジュリアス王国の領地近くにあったのだが、モスが大移動したのをきっかけに南の岬先に囲い込むためにドームを作り、白の楽園にしたらしい。


 エバグリーンがこの地に降り立った時にはドームの中にモスはいたのだから、まさかそれが繭になるとは思わなかった。


「エバグリーン、馬車が停まっている」


 リム十人を乗せた幌馬車が岩に車輪を捕られ傾き気味のまま停車していて、ユーグ隊が板をかけてなんとか動かそうとしている。


「大丈夫かぁ?」


 加藤が荷台から声を掛けると、ユーグ隊の三人が手を挙げたが、どうにも馬車が動かせないらしい。


「手を貸していただけませんかー?」


「おう」


「待ってください」


 加藤が荷台から降りるのを、エバグリーンは止めた。


 何か変だ。


 落ち合うはずのクリムト領地はまだ先だが、人数が足りない。

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