裸エプロン
改稿済
料理の基本は、煮る、焼くだ。
特に北ではウサギの煮込みが有名で、とろとろになるまで骨ごと煮込むウサギに、茹でた根野菜をいれる。
楽園騎士団の食堂での人気料理だ。
ラビットはクサカが女王として育てていたファナの国へ行き、辺境人の魂を宿したファナの王国料理人となった訳なのだが…。
「料理長、厨房の具合はどうだ?」
ファナの国…グランディア王国の住民であり、リムの下僕であるハイムが剣を鋸に変えて働いている。
「ああ、大丈夫だな」
外扉を開けた居間と、そこにあったキッチンと風呂を分けたのだ。
といっても、風呂を広くしてそのままの場所に、居間をさらに広くとった。
厨房の奥にはラビットの部屋が作られ、ファナとティータの王の私室は居間の奥に、ハイムの部屋は外扉の近くに作られ、そこでハイムとファナはダウンしている。
そんなファナが食べたいと話したのが、『ブライドポテト』だ。
また、油だ。
料理が煮る、焼く、揚げるとなった。
しかもまだ小さいリムのお嬢ちゃんたちは、やたら料理のお手伝いをしたがり、その柔らかい肌に油があたるのではと、ひやひやする。
ラビットは部屋に運び込まれた虫の布を見て、ふと思い付き、ラビットバスケットから、リム専用のセットを取り出した。
油の匂いがする。
床に大の字になったハイムは、顔に被せていた長衣を剥がすと、床にすわったまま隣でうたた寝をするファナを見上げてから、起き上がった。
今回働いたのは死体の重吾で、ファナは重吾を操っていたのだ。
似ているようで似ていない。
辺境人は彫りが浅く、のっぺりとしている感じがする。
『さっぱりした顔してんだよ。濃いやつめ』
そんな風にファナが揶揄してきた重吾の髪も瞳も濁りのない黒で、赤いメッシュが入るハイムとは違っていた。
そういえば重吾の服が変わった。
中は黒く染めた虫の布の袖無しにズボンは変わらなかったが、上着が川紫貝で染めたハイムのような長衣になったのだ。
「着替えが楽だし」
ハイムは黒のビシュートで、重吾は青紫のビシュート、それは時にリムの幻影に匹敵するのではないかと考える。
なぜならばあのティータに抱きつかれたのだ。
背後からはあまり見分けがつかないらしく、
「マスター、ファナ様は…あ、あ?む…ハイム…」
外から飛び込んで来たティータが、真っ赤になってハイムのビシュートから手を離したのが、むちゃくちゃ可愛かった。
「王様、起きてくれ。油の匂いがする」
ファナがパチリと目を開き、鼻をふんふんと鳴らす。
「よし。いくか」
「え、あ、王様?」
部屋の改造を終え、あとは客室を設えるだけだからいいだろうと、ハイムが厨房に入った時に悲鳴のような声をあげたくなった。
「ラビット様、ジャガイモの水切り終わりました」
「お、しっかりと拭いてな。で、ティータ、ノーパソはなんてな?」
「ええ、木の棒ふつふつ泡で適温」
シャワワワ…と油が芋を包む音がして、いい匂いがしてくる。
ラビットが黒いエプロンをしているのはともかく、ティータは裸体にエプロンをつけているのだ。
フリルのついた白いエプロンはフリルたっぷりで、しかし丸くて小さいお尻が丸見えのサロンエプロンである。
「なっ…なっ…ラビット師匠!」
ラビットは神妙な顔でスティック型のジャガイモを揚げると、それを塩入の紙袋に入れてガシャガシャ降って中身を皿に開けた。
「ハイム、毒味だ。食ってみな」
揚げ芋を恐る恐る口に運ぶと、サク…と香ばしくしかも旨味がある。
「う…ま!旨い!芋はこんなに旨いのか?」
「ハイム、美味しいかしら?」
「ティ、こんなに旨い芋は初めてだ。はら」
思わず手にした芋をティータの目の前に差し出し、ハイムは後悔した。
食べてくれるはずは…ない…ぱく…?
ティータがハイムの指先からブライドポテトを唇で取り、口内に入れて咀嚼したのだ。
「まあ、美味しいわ」
至近距離から下を見ると、裸の上のエプロンから胸元がチラチラ見えて、またお尻を包む大振りなフリルとリボンが、小さいティータの丸いお尻を可愛らしく演出し…。
「ティータ、よかったなあ、エプロン作ってもらえて」
「エブロンだけじゃないな。ノーパソと尻を入れるポシェットもお揃いで作った」
裸の上にエブロン…裸エプロン…。
ハイムの脳内にぐるぐると渦巻く妄想は、果てなく止めどなく…。
「師匠、あんた…あんた…すげえよぉぉ…」
ハイムは下半身事情から、外に飛び出したのであった。




