表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第一章 フーパの屋敷にて
10/226

フーパの屋敷にて9

改稿済

 バスタブ式の風呂に浸からせてもらい、思わずおっさんのようにうめき声を立てたあと、さっきまで巻いていたバスタオルで全身を拭いて鏡を見ると、さらっさらの金髪がふわりとそよぎ、湯で温まった小さな身体はほんのり桜色で頬は桃色に、恥じらう瞳は遠き日の青空と不安がない交ぜになる曇天…そんなファナがいた。

 

 どんな風に喋っていたのだろうか、この身体のファナは。


「痛かったろうなあ…」


 首が折られていたそうで…血糊で茶色くなっていた髪を丁寧にといてやる…今は自分の身体だから変な感じだ。


 で…ポンチョだ…。


「おや、よくお似合いです、ファナ的重吾さん」


 なんで…フードに兎の耳付きなんだ。


 ソファに座ると布靴をそっと履き、人心地ついた…まさにヒト心地だ。


「本当は白の楽園の『箱庭』で登録され、主と契約したリムだけが着られるのですが。仮契約的な処置です。ダグラムの所へ行き食糧など準備が出来たら、なるべく早く出立するといいです。鉄の四つ輪なら楽園に着く前に、マクファーレンたちに追い付くかもしれません」


 カミュが何か文書をしたためた紙を渡してくれるが、言葉は分かるが文字を読むのはできないらしい。


「あなたの処遇についての相談が書かれています。これを白の楽園に持って行ってください。それから…」


 もう一枚紙を渡されて、俺は


「なに?」


と呟いて、カミュを見上げる。


 そこには線の連なりと幾何学的な模様が描かれており、芸術性のある何かか暗号で、それも白の楽園管理者に渡すのかと思ったのだが…。


「もしかすると出会ってしまうかもしれないガゼルの顔です」


「カミュさん…これが似顔絵…か?」


 カミュがまじまじとその紙を見て、


「よく似ていると思うのだけど…どうかな、ミロス」


と言うと、ミロスが頷いた。


「補足します。マスターアークカミュ様。全き光よ、静かなる闇よ、記憶を示せ」


 黒のローブから健康的な色の伸ばした両手を翳すと、痩せた死体の俺よりも背の高い神経質そうな男がそこに現れ、青黒の楽園騎士団のコートを着て立っていた。


「うお…すげえ…黒のリムってこんなこと出来るのか…」


「意識の霧散を光と影で構築…いたたた…マスター、止めてください」


 ダイナミックなイラストを投げ捨てたカミュが、ミロスの両こめかみをげんこつでぐりぐりと戒め、


「全く…ミロス、マスターに恥をかかせた罰を与えます。裸むち打ちです。覚悟しておくように」


と低い声で耳元に囁いて小さな耳たぶに噛みついた。


 そしてざらりと耳端を下から舐め上げると、


「あっ…」


と声を上げてしまい、それに真っ赤になったミロスが、ローブを翻して隣の部屋に逃げ込んで、光と闇の饗宴は終了した。


 唖然としたのは俺だよ。


 飄々としてジューゴの尻や股間をなでまわすカミュが、リムと…と動揺していると、


「リムを可愛がり愛して繋がりを作るのも、マスターの役目です。リム的マスターであるあなたは…自家発電ですか?」


 なんてくすくす笑われて、俺はマスターとリムの関係をやっと理解した。


「いたしません」


 俺は決してロリコンではないし、今はどうにかして自分の身体に戻りたいだけだ。

 

 このファナというリムのボディを白の楽園の女のリムの育成機関『楽園』に連れていき、全てを理解してからだろ、マスターとリムの関係とやらは。


「じゃあ、行くわ。ありがとう、カミュさん」


「カミュで結構です。ファナ的重吾さん」


「俺も重吾でいい」


「はい、ではファナ的重吾。今後会うことはかなわないかもしれませんが」


 カミュに俺の死体を運んでもらい一階のギャラリー集まるランクルに乗せてもらうと、そのまま車をダグラムの詰め所に着けさせてもらった。


 正直、俺の生きた死体の移動には困っている。


 俺の身体と一定距離を保たないと、すごくダルいんだ。


 つまり…俺はファナの身体に憑依しているのか、俺の身体とシンクロしているのか、正直よく分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ