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プロローグ 扉絵入り
改稿済
奈落とはまさにこのことだ。
吹き上げるのは、
風
風
風
見上げれば真っ青な空色で、見下ろすと真っ黒な闇色がまるで喰うとばかりに口を開けている。
重量のある相棒のランドクルーザーは、既に黒に呑み込まれた。
しかしランクルが緊急射出と言わんばかりに横倒しになり、ドアを勝手に開いてくれ、重吾は重力に任せて排出したお陰で口を開けるのも躊躇われる風の中に浮いていられるのだ。
「くっ…そ…」
いつかは卵が床に落とされた末路の如く、奈落の底に叩きつけられると簡単に想定される。
重吾はこわい癖毛のために額が全開にならない自分にありがたいと思いながら、手の届くところに風で押された警察機動隊車両を見つめた。
あの少年は助けられたのか、わからない。
鈴木重吾ははしがない日本の警察官だ。
第二東名を逆走する一人の少年を助けるため身を張った、死ねば弐階級特進の警察官だ。
「くそ…っ…たれぇ…」
重吾は風の中で叫んだ。
「死ぬのかよ…」
黒い世界は山肌に違いないのに…
光
光
光
まばゆい光が重吾を包みこんだ。