中学生編 終
周囲はもう暗くなっていた。
茂野君は真剣な顔をして私を見ている。
「それって、恋愛感情?」
「じゃなきゃ言わないだろ。」
沈黙が訪れる。
「今日の茂野君変なことばっか言ってない?昔話とかさ。」
「そんな事ない。俺は前から十和のこと好きだったよ。」
私はこれ以上言葉が出なかった。
「ごめん、やっぱ無し。変なこと言ったわ。」
茂野君はそう言って歩き出した。
彼の気持ちをこんな曖昧にしていいのか、そう思って私は今できる精一杯の返事をすることにした。
「あ、受験、受かったら・・・いいよ。」
茂野君はどこか悲しそうな顔をして、無理矢理笑顔を作っていた。
「嬉しいよ・・・。」
「そんな事があったんだ、はんこちゃん。」
あの後茂野君と別れて、私はいつも通りはんこちゃんの病室に訪れた。
「私、変わっちゃったんだね。またね、はんこちゃん。」
はんこちゃんに別れを告げ、私は病室を後にした。
そして、思い出したのだ。はんこちゃんを救う方法を。
真結と茂野君の受験前日。
私は早起きをして神社に向かった。
昨日話題が出るまで忘れていた、願いを叶えてくれる神様。もしかしたら、という思いで向かった。
朝の神社は霧が濃く、別世界のようだ。
「・・・。」
久し振りに来る神社は神秘的だった。
「あれ?茂野君?」
先客がいたので声をかけてみたら茂野君だった。
「え?十和・・・?何で?」
茂野君は戸惑っていた。まるで悪戯が見つかってバツが悪そうな、そんな様子だ。
「え、と。久し振りに寄ってみたの。」
「そ、うなんか、俺も毎朝のランニングコースなんだよ。またな。」
そう言って茂野君はいなくなった。
他に人はいない。
私はすぅっと息を吸って、掌を合わせた。
「私の友達の記憶を、どうか戻してあげてください。」
私はそうお願いして、そのまま学校に向かった。
その日、私は学校を早退する事になった。
理由は母親が倒れたからだ。原因は脳梗塞。
その日の夜には母は亡くなった。
「お婆ちゃん・・・。」
「大丈夫、千冬は天国に行ったのさ。」
私は祖母の胸の中で泣いた。久し振りに、涙を流した。
そして、思い出した。
神様は願いを叶えてくれる、その代わり大事な人を不幸にする。
「私の、せいだ。」
その日、私は泣くだけ泣いて、吐いて、眠れもしなく、やつれていった。
はんこちゃんの病室には行けなかった。明日は二人の受験だ。
「助けてよ・・・。」
誰に言ってるんだろう、助けてくれる人なんているはずがない。
次の日、私は心の整理をつけた。悲しんでばかりはいられない。悲しむ時は悲しむ。今はその時じゃない。
私はケータイを開いて真結と茂野君に受験頑張ってと送った。
そして病院に向かう。
「おはよう、はんこちゃん。」
朝一で御見舞に来た私は彼女に挨拶をした。
「え、あ・・・おはよう、千代ちゃん・・・。」
はんこちゃんは怯えながら、私に挨拶をした。
「思い出したんだね。」
「・・・ごめんなさい。」
何故か謝られた。
「どういうこと?」
「私が!私のせいなの!あの神社の!本物なの!!千代ちゃんが話してたの聞いておまじない気分だったの!あんな・・・あんなことになってごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。」
泣いて謝るだけで話にならなかった。けれど、なんとなく分かった。
はんこちゃんは神社でお願いをしたんだ。そして、大事な人、多分はんこちゃんにとって大事な人は自分自身。それでこんな事になった・・・そういうところだろう。
「神社が本物なのは知ってるよ。私がはんこちゃんの記憶を戻してってお願いしたの。お母さんは死んだけどね。」
それを聞いて、はんこちゃんはまた泣いた。
私は彼女にもう罪悪感も何も感じなくなった。
「さようなら、はんこちゃん。」
全部、わだかまりは消えた。お母さんは私のせいで亡くなったけど、それは私の償いの贄だ。
真結と茂野君・・・直正君は無事受験に合格した。お母さんの葬式も終え、中学校の卒業式も無事終わった。私達は高校生になる。
「行ってきます、お婆ちゃん。」
真結の髪型は眉上ぱっつんです、まゆだけに
終われ(続く)