プロローグ
いつも後悔していた。何かを辞めるとき、理由が見つかって……
いつも後悔していた。もう一度始めるきっかけを探すも、見つからなくって……
いつも後悔していた。昔を考えるたび、あの時自分の中にあった熱を思い出して……
~~~プロローグ~~~
高2の夏、日が傾きかける校舎の中、部活に向かう生徒が早足に駆けていく廊下を職員室の方に歩いていく。時折知り合いが少し面白そうに声をかけてくる。
「何かやらかしたのか?」
特に身に覚えのない俺は、どうでもよさそうに短く返事をした。
「知らん」
職員室に入ると担任が渋い顔をし、手を挙げてこっちを見ていた。ほかの先生に注目される中、先生の前まで移動する。
目の前まで移動するとすぐさま担任は切り出した。
「取り敢えず座れ、今日呼び出したのは、後期からの文理のクラス分けについてだ。うちのクラスで提出してないのは、柏木お前だけだぞ」
担任に言われ提出日がとっくに過ぎていたことを思い出した。
「どっちにするのか決めたのか? 成績はそれなりに良いんだ自分の将来を考えて選べよ」
自分の将来、これまで特に考えてこなかった。いや考えないようにしていたことを先生に言われ思わず言った。
「明日までに考えてきます」
取り敢えず先延ばしにすることにした俺は、自分のやりたいことを考えながら、帰宅するために駅に向かう。
昔は、何かしらのスポーツで食べていきたいと思ってた。バスケを辞めてから、友達に流されるように色々なスポーツをやった。色々なスポーツをやっても結局は飽きてしまい続かなかった。何故あの時自分は、体格差で勝てないことが悔しくて、勉強に専念するのを言い訳にバスケを辞めてしまったのだろうか……あの時からだ、自分の中で色々な物に対して諦めてしまうようになったのは、夢や希望なんて言葉を口にしなくなったのは
『後悔しているの?』
頭の中で心配そうな声が響く
『後悔してるんでしょ?』
頭の中で偉そうな声が響く
突然聞こえた声に返事をしてしまう。
「後悔している」
『ならやり直しましょ♪』
頭の中でとても嬉しそうな声が響く
突然あたりが光ったかと思うと真っ白な部屋にいた。意味が分からず辺りを見回すと部屋の真ん中目の前にぽつんと椅子が浮かび上がる。彼女はそこにいるのが当たり前のように、いつから腰かけてたのか分からないが、気付いたらそこに美女がいた。真っ白い羽をはやし、透き通るような青い髪でどこかいたずらが成功した子供みたいな顔をして。
「誰だ?」
当然の疑問を口にするが返事はなく。代わりに思わずドキリとしてしまうような笑みが返ってくる。
「ここはどこであんたは誰だ?」
なおも疑問を口にすると、やっと答える気になったのか美女が腰を浮かせながら言う。
「ここがどこかってわからないの?君が生まれた場所に決まってるじゃない。それに私が誰かなんて態々聞かなくてもわかるでしょう?」
そう言って、少し呆れたように短い溜息を吐きながら、態々腰の調子を確かめるようにひねり、背中を向け羽をピクピク動かしひねりを戻しながら頭の上に輪っかを出現させこっちを見る。
「わかった?」
羽と頭の上の輪っかから考えて答える。
「天「え?聞こえない!」」
笑顔だがどこか笑ってない顔で威圧される。
「だから、天「え?何?」じゃないのか?」
「……………」
「ちょっと聞こえなかったからもう一度行ってくれる?」
意味がわからない、明らかに天使のような外見をしているが、どうやら天使ではないらしい。
「天……使「あ〝?」じゃなくてアレだよね〜うんわかってる!アレだよアレ」
「あ〝ん」
額に青筋を浮かべ、微笑む彼女のドスの効いた声にビビりすぐさま謝りながら言う。
「ごめんなさい!バカな私にはわからないので、教えていただけるとありがたいのですが……天使じゃないならどちら様ですか?」
一瞬明らかに笑顔が崩れたが、未だ笑顔を保ったまま呆れたように天使(仮)は宣言した。
「ったくしょうがないわね〜〜〜〜わ・た・し・は神だ!!」
「…………………………」
「I am beautiful God !! 」
「何故英語なんだ?ってかさりげなくbeautiful を入れんな!!そんな羽と頭の上の輪っか付けといて天使じゃないはおかしいだろ!」
両手を肩の位置まであげ首を少し傾けながら、心底呆れたように自称神は答える。
「最新のモテカワアクセを羽と輪っかって……これは今神の間で流行ってる最新のファッションだっていうのに」
「紛らわしいわ!!ってかアクセサリーってことは羽と輪っか取り外し可能かよ!」
「当たり前じゃない!こんなのいつもつけてたら邪魔でしょ?ってか私を天使だなんてなんて失礼な、あんなの私達からしたら使い魔やペットみたいなもんよ!」
そう言って彼女は、椅子に座り直し、天使っぽい輪っかをそこらに投げながら、足を組み切り出す。
「さて、いい加減疲れたから本題に入らせてもらうわよ」
本題、そもそもなぜ自分はここにいるのか。気付いたらここにいた。それにさっきは流してしまったが、俺がここで生まれたとか言われたきがする。確認のため聞いてみることにする。
「ちょっと待ってくれ、さっきは聞きそびれたが、俺がここで生まれたってどうゆうことだ?」
「え?そこから?」
彼女は一言つぶやくと、人差し指をピンと伸ばしたて、俺の顔の前に指を持ってきて説明をはじめた。
「しょうがないから一から説明してあげるわよ。まず、あなたがここで生まれたことについてね。結論からいうと私が作った」
突然のことで頭の中で何回か考えてみたが答えが出せない。俺にはちゃんと親がいるし、子供のころからの記憶もある。この自称神が何を言ってるか全く理解できなかった。
「混乱してるようだから言っとくけど、作ったってのは生まれる前、魂の状態で持ってる初期値を。ゲームでいうところのスキル振りみたいに、私自ら振ってあげたってことよ」
説明されているはずなのに謎が増えていく。ドヤ顔でさも感謝しろとこっちを見てくる神にイラッとくる。
「私自らって、言うが普段は違うのか?」
「あったりまえでしょ! 一日何人子供が生まれてると思ってるの? 普通は全部自動で振られるのよ。まぁ多少は親との血のつながりによって補正されたりするけどね。そもそも私自ら振ることなんてないんだから、ちなみにあなたで……二人目よ。かっか勘違いしないでよね。男の子はあなたが初めてなんだから……」
そう言うと顔を赤らめ、潤んだ瞳でこちらを見上げ、両手の人差し指をツンツン合わせくねくねし始めた。
「………………」
「何よ、何か反応しなさいよ、恥ずかしいじゃない」
「じゃあ聞くけどどうして俺を作ったんだ?普通はしないんだろ?」
素の反応で返されたのが面白くないのか、やや拗ねたように彼女は言う。
「つまらないやつね。もっと激しく突っ込んできなさいよ。ったく、まだ私は若い神なんだけど、地球とパロキアっていう二つの世界を任されたのよ。でも、任されたパロキアは、魔王によって世界は荒れ、絶えず戦争が起こる地獄のような世界だった。そこで私は一人の女の子の魂の初期値を振り少しの力を与え勇者にした。彼女は世界を救った。しかし、勇者に待っていたのは絶望だった」
「待ってくれ、何で世界を救った勇者が絶望してんだ。そもそも俺を作ったこととどう関係してくるんだ?」
「まだ、お話の途中でしょう。おとなしく聞いてなさい。なんやかんやあって彼女は絶望してしまったのよ。それであんたを作った理由だけど、彼女は力に能力を振りすぎた所為で賢くなかったのよ。別にバカってわけじゃないんだけど、彼女は人間らしいずる賢さ、自分を入れた損得の感情がなかった。だから彼女は正しくあろうとし過ぎてしまった。あんたを作ろうと思ったのは、そんな彼女を救うために能力の割り振りを実験するためよ」
実験、その一言が自分の中にある感情をひどく冷めさせた。これまで彼女との会話は短いがちゃんと向き合って話せていたつもりだった。しかし、そう考えてたのは、自分だけで、あっちは実験動物かなんかと話してるような気持だったのかと思うと悲しくなり、どうでもよくなった。
「何よ、怖い顔しちゃってどうかした?わからないことでもあった?」
実験動物の感情なんかわからないのだろう。こちらのことなど、どうでもいいような明るい笑顔で聞いてくる。
「別に、それより俺はどうしてここに呼ばれたんだ?」
俺の不機嫌そうな顔を見て、彼女は心配そうな顔をし、そっと立ち上がり近くから顔を覗き込んだ。
「大丈夫?疲れちゃった?具合悪いの?とりあえず椅子に座りなさい」
そう言って、彼女は先程まで座っていた椅子を勧めるようにこちらの手を引いてきた。とっさのことだった。気付いた時には彼女の腕を払っていた。
「ごめんね。なんか気に障っちゃったかな?」
彼女は申し訳なさそうに聞いてくる。
「なんでその絶望した勇者を救おうと思った?」
「そんなの自分が作った。言うなれば子供を親が放っておくわけないでしょ」
「じゃあ俺はどうなんだ?その子を救うため実験で作られた……俺は子供じゃないってのか」
彼女は驚きで目を見開いた。やっぱりそうか、実験動物が何を言ってるんだ、そう思ってるに違いない。しかし、彼女が言った次の言葉で俺は間違いに気づいた。
「何言ってるのよ。あなたが心配になったからこっちに呼んだんじゃない。後悔で苦しんでるあなたを見て、また、あの子のように世界に絶望しちゃうんじゃないかって、どこかまた、能力の振り分けを間違えたんじゃないかって、そのせいで苦しんでるんじゃないかって、自分の子供を心配するのは当たり前でしょ」
そう言った。彼女の両目からは大粒の涙がボロボロとこぼれていく。
「ごめん。母さん」
気付いたら口から言葉が漏れていた。母さんと呼んでしまった恥ずかしさに顔が熱くなっていくのがわかる。
「こっちこそごめんね。でも母さんって呼ばれるのは、なんだかむず痒いわね。これからはラムルって呼んで。むっむ息子よ」
思わず見とれてしまった。恥ずかしそうに微笑む彼女の顔は濡れた瞳と相まって宝石のように輝いていた。
「じゃあラムルも蓮って名前で呼んでよ。息子って言われるのは恥ずかしいし」
「わかったわよ。レンこれからはレンって呼ばせてもらうわね」
「話を戻すけど、俺をここに呼ぶとき、やり直すがどうとかって聞こえたけど、ラムルは俺をどうするつもりだったんだ?」
「それは、レンと話してみてあの世界に絶望してるようなら、能力をランダムに振り分けた後、元の世界に返し、本来レンの魂が歩むはずだった人生を歩ませてあげるか、パロキアで新しく一から暮らしてもらおうと思ってた」
「能力をランダムで振り分けた俺の記憶はどうなるんだ?」
「記憶は保持したままだけど、もしかしたら考え方とかが変わり、しばらくは自分じゃないような感覚陥るかもしれないわね」
「他の選択肢はないのか?」
「う~ん他は特に思いつかないわね。とりあえずレンはどうして後悔していたの?」
その質問に頭の中で考える。いつから後悔をするようになったのか、何に対して後悔していたのか
「最初は、体格差で勝てなかったのが始まりだった。中学二年だった俺は、何でもできる気がしていたんだ」
「本当に勝てなかったの?」
「そう、勝てなかった。高校でいろんなスポーツに触れ、体の動かし方が洗練された今。あの頃の俺は、あまりにも未熟でいろんな意味で弱かったと思う」
「あなたは勝てなかったことに後悔したのね?」
「違う、そうじゃない!!調子に乗り何の努力もせず、勝てなかったことを思い返し、今なら負けないとそんなことを考えていることに腹が立つ」
自分の中で、感情が溢れてくる。気付かぬうちに歯を食いしばり、痛いほど手を握りしめていた。
「バスケなんて本当はどうでもよかったんだ。本当に後悔しているのは、理由をつけて諦めて辞め、辞めたままで新しく始める勇気を出せない。そんな自分があまりに弱く滑稽で許せない!!後悔したんじゃない今なお後悔し続けているんだ……」
「また……私は振り分けを間違えたのかもしれないわね……」
ラムルは震える声でつぶやき、涙が頬を伝う。
「違う、間違えなんかじゃない。これは俺が弱いからだ」
「でも、レンが苦しんでるのは、私が何かしらのミスをしたからじゃないの?」
悲痛な顔でなくラムルを見るとなぜか心が痛み、考えてもないことが口から飛び出していた。
「なら、俺が彼女を救って見せる。そして、ラムルが間違えてなかったってことを証明してくるよ」
自分から出た言葉が信じられず思わずラムルの顔を見てしまう。ラムルは言われたことの意味が分からない。そんな顔をしていた。
「何を……言ってるの……そんなの無理よ。ちょっと出かけてくるような軽い気持ちで言ってるようだけど。あの世界は、今のあなたが住む世界と違ってとても生きにくく、死がとても近いのよ。そのうえ彼女を救うなんてできっこないわ!!」
「それでも行ってくるよ。きっと行かなきゃ後悔する。もし、このまま何もせずにいたら自分は一生変われない。やっと何かを始める勇気が出たんだ!!」
自分の胸でつっかえてたものがストンと落ちるのを感じた。
「何笑ってるのよ!!どんなに危険なのかわかってるの?」
「……わらっ……てる?」
思わず手で顔を触る。知らないうちに口角が上がっていた。
「ちょっと世界に絶望した女の子、それを心配するちょっと残念な女神様、たった二人を救う位やってみせるさ。記憶を保持したままパロキアに行くことはできるんだよね?」
「待ちなさい!!誰が残念なのよ!?確かに送ることはできるけどあのパロキアは危ないの今のあなたが一人で行っても死ぬだけだわ、それに、言葉もわからないあなたがどうやって生きていくつもりよ」
「そこは、神様の力とかでどうにかならないの?」
「なるわけないでしょ、基本的に私が世界に干渉できることなんて無いの。世界を維持するために選んだ子に能力を振り分けたり、その子をここに呼んで神託をくだし帰すくらいしかできないの」
「ちょっと待って、彼女をここに呼ぶことはできないのか?」
「それなら試したわ。彼女は封印されていてここには呼び出せなかったの」
「封印されてる?彼女は何をしたんだ?」
「特に何もしてないわ。ただ、王や貴族の不正を暴こうとしただけよ!」
「なるほど、正しすぎたがために疎まれたのか」
「それよりどうするの?あなたがあの世界で記憶を保持したまま生きていくには、転生するくらいしかないわよ」
「じゃあそれで」
そういうと彼女はあきれたようにため息をつき、頭を抱えた。
「軽いわね。自分のこれからのことなんだからもうちょっと考えなさいよ」
確かに考えが甘いのかもしれない。しかし、決めてしまったのだ。新しい世界で一から始める。目的は、一人の女の子を救いに行く、男に生まれたからには、一度は想像するものだろう。
「考えたさ、今の世界で何の目的もなく生きるより。俺は二人の女の子を救えるそんな世界で諦めずに頑張ってみたいんだ」
「どうしても行くの?あちらの世界は、剣と魔法弱肉強食の世界よ」
「ああ、どうしても行く!剣と魔法と聞いて行かないなんて男の子じゃないからね」
「わかったは、行ってもいいけど無理はしないで、死んでしまったらもうここには呼べないの、それと次に呼べるまでに最低10年は掛かるわ。だから、どんなにキツくて諦めてしまいそうになっても私が呼ぶまでは諦めずに生き抜くと誓って」
「…………誓うよ」
「……ほんとに行くのね?」
「そろそろ行かせてよ、長く考えすぎると決心が鈍りそうなんだ」
「行ってらっしゃい、頑張ってね」
「その言葉が、聞きたかったよ。行ってきます」
その言葉を最後にどんどん視界が闇に包まれていく、さっきまであった感覚がゆっくりとぼやけていく。
完全に闇が広がると感覚が無くなったようだ。行ってきます……
初めて書くので遅筆ですが頑張ります。