沈黙の司書Ⅱ
チカオウェノから、車で北へ向かうこと約一日。
リルド、
ライアン、
ミルオズ、
三つの街を通り過ぎ、アーネストとエフィはようやく首都パドスライに到着した。
「へえ……」
エフィは、その街並みに思わず声を上げた。
第二都市といわれるガラ以上に洗練され栄えた街並みに目を引かれたからだ。
正確に言うと、ガラが田舎に見える程の栄えた街並みに、だ。
商業地区を抜け、官庁街に行くと、その違いはさらに際立った。
機能的な巨大建築物が多数立ち並び、集積する街並みは行きかう人は多いのにどこか静謐で荘厳な雰囲気がある。
街路樹の緑多く、大きな公園もあり、道幅もゆったりと広いのに、迫力を感じさせる街並みは他ではちょっと感じられない特殊なものがある。
アーネストとエフィは駐車場に車を止めると、中央図書館に向けて歩き出した。
「すごいですね。ここがこの国の中枢ですか」
エフィはあたりをきょろきょろ見回して言った。
「初めてか?」
「はい」
「初めてなら驚くのも無理はないな。この街はこの国一番にして唯一の中央省庁集積地だからな」
「警備も厳重ですね」
エフィの視線の先では、ひざ丈ほどの金属の柵を人一人分残して閉じ、そのスペースに警備員が立って建物に入る人間をチェックしていた。
「ああ、あれは法務省だな。あの先にはさらに詰所があって、建物の中には合わせて一個中隊の機動隊がいるらしい」
「狙われる可能性があるからですね」
「そうだ。だが、さすがに中央図書館はあんなじゃないがな」
と、アーネストは笑った。
が、その直後、笑いがぴたりと止まった。
アーネストの視線の先にある中央図書館の前にも警備員が立っているのだ。
さすがに法務省のような柵はなかったが、以前だったならいなかったはずだ。
「おかしいな……」
アーネストは首をひねりながら近づくと、警備員が敬礼をして話しかけてきた。
「今日はどのような御用ですか?」
「調べものを少々」
アーネストが身分証を提示しつつ答えた。
「そうですか。申し訳ありませんが、簡単な手荷物検査とボディチェックがありますので、男性の方は入ってから左へご婦人は右へお進みください」
と、警備員は指をそろえて、図書館の入り口を示した。
「ボディ……チェック?」
アーネストは目を丸くした。
以前はそんなものなかったからだ。出入りは自由だった。
警備員はその言葉に恐縮すると、
「ええ、急きょ決定したんです。先日の司書殺害の事件を受けまして。ご協力お願いします」
と言った。
「司書……殺害?」
アーネストの顔が険しくなった。
「はい。特級司書の女性が一人」
「! その名前は?」
アーネストは訊くが、警備員は困った顔をして、
「申し訳ありませんが、私は詳しいことは……」
と言った。
職務命令で口を閉じたといった様子ではないので、本当に詳しいところまでは知らないのだろう。
「わかりました中で聞いてみます」
アーネストがそう言うと、警備員はもう一度敬礼をした。
早足で中央図書館入り口に向かうと、アーネストの後ろからエフィが、
「嫌な予感がします」
と言った。
アーネストも、だ。
とびきりの悪い予感がしていた。
アーネストがボディチェックを受けて、エントランスに入ると、一足先に終わらせたエフィが待っていた。
「こっちだ」
と、アーネストはエフィに声をかけ、所属司書の名前が書かれた掲示板の前まで急いだ。
ずらりと200名近くの司書の名前が並ぶ中、アーネストは特級司書の名前が書かれた名前を追った。
「アーネストさん、知り合いの特級司書の方って、シェリル・リンチさんじゃないですよね?」
と、エフィが訊いてきた。
「なんでその名前を知っているんだ?」
アーネストが驚いてエフィの方を向くと、エフィは青い顔をして、あるところを指差した。
所属司書の名前が書かれた掲示板ではない。
利用者へのお知らせの掲示板だ。
そこには大きな文字でこう書かれた文書が掲示されていた。
特級司書シェリル・リンチ殺害事件に関しての情報提供のお願い。