3、カオスの大統領に会う
人間になり、死ぬ心配はなくなったワン太に男は古代ローマ風の服をもって来てくれた。
「ありがとうございます。ところであなたの名前は?」ワン太が言った。
「わしか。わしは〈ピカテ・チュードイック〉と言うものじゃ」
「ピカテさん、人間にしてくれてありがとうございます」
「いいや、礼を言うなら髪の毛をくれた、彼に礼を言うんだな」
「ありがとうございます。ご主人様」ワン太が深々と頭を下げる。
「そんなにかしこまらなくていいよ。火竜と呼んでくれ」私はスキンヘッドになった頭を撫で回しながらワン太に言う。
「火竜さん。ありがとうございます」ワン太は改めて礼を言った。
「さてと」ピカテがゆっくりと足を送り出した。
「どこへ、行くんですか」私はピカテに聞いた。
「うむ、大統領に連絡を取ろうと思っての。お前らも一緒に来るか」
「「はい」」私とワン太は同時に言った。
テレポートをするから、手を出してくれ。ピカテが言った。
私とワン太は両手を出し、3人で握り合い円を作った。
ピカテはふうっと軽く息を吐いて目を閉じ、何か聞きなれない言葉を紡いだ。
直後、地面が軽い振動を起こし始める。それは波紋のように周りに広がって行き、近くの草木や空間を揺さぶる。
辺りの景色が陽炎のように歪み、ジェットコースターに乗っているように周りの景色が加速する。
時間にして数秒。景色が動きを止める。
「着いたよ」ピカテは言った。
辺りを見回す。広大な建物内の廊下の様だ。廊下はとても長く、奥まで見渡すことは困難だった。天井の高さは数十mはありそうだ。床は大理石に似ていて硬く、光沢を放っている。どこか、西洋の宮殿を思わせる建物だ。
「ここが、大統領が住んでいる建物だ。大統領に会うときは、いつもこの場所へテレポートする。今から会いに行こう」ピカテは心なしか緊張した面持ちで言った。
ピカテの後ろを私とワン太は導かれるまま、付いて行った。コツコツとした足音だけが、広大な建物内に木霊する。
しばらく、廊下を進んでいると巨大なとても頑丈そうな扉が目に入った。
「この扉には強力な結界が張ってあって、近くにはテレポートできないんだ」ピカテが言った。
扉の真ん中には緑色のランプが点灯していた。
「これは、大統領が在中のランプだ」ピカテが言い、側にあったインターホンを鳴らした。
甲高い音が廊下に響き、しばらくしてインターホンから声が聞こえた。
「もしもし、大統領です。どちら様ですか」
「私です、〈ピカテ・チュードイック〉です」
「ああ、ピカチューか。どうした?」
「地球という星から来訪者が来ました。助けて欲しいと」
「入れ」大統領は荘厳な声で言った。
扉は見る見るうちに変化し、水のような光をキラキラと反射する透明な扉になった。
「行こう」ピカテは私達を促した。
神秘的な扉を潜り抜け、大統領の部屋へと入った。どこか殺風景な部屋だ。
「ようこそ、君達がこの星へ入って来たのは知っている」大統領が言った。
「害のある者は、この星に侵入できないようになっている。君達は無害だ」大統領が続けて言った。
「地球が、絶滅の危機にあるんです。助けて下さい」私とワン太は言った。
「いいよ」大統領は軽く言った。
すぐに、カオスから地球へ大量の宇宙船が向かい、地球は救われた。
§
プシューと音がして、二つの扉が解き放たれた。頭に被っていたヘルメットが機械によって脱がされ、一人と一匹の目が覚める。
「はあーぁ。今どの辺りだ?」 火竜は宇宙船を操作し、位置を確認した。
「地球を出発して一万年。あと、少しで目的地のカオスへ到着だ。今まで様々なカオスの夢を見てきた。夢でのカオスのシュミレーションはもう終わりだ」火竜は感慨深げに言った。
火竜とワン太は宇宙船の窓から、宇宙を眺めこれからの冒険に胸を躍らせるのであった。
/おわり