第二幕 第一章 『Encounter』
さてようやく始まりました第二幕ですが、ここからは更新のスピードを少しでも速めるために若干話が細かく成る可能性がある事をお伝えしておきます。
※おまけ※このお話はフィクションです。
入学式が終わった後、一年生には始業式が始まるまでに三十分間の休憩時間兼クラス発表掲示板を閲覧する時間が与えられ、ぞろぞろと体育館から生徒達が退場して行く。
同じ高校から来ている友人が居る人間にとっては眼の色が変わる様な時間であるものの、契にとってはさしてどうでもいい空隙の時間に過ぎず、これから三〇分間を校内の見取り図でも頭に入れに行こう等と考えながら体育館を出て、校舎を一望できる学園の中庭に立ちその全貌を眺めていた時の事だ。
まさに女三人姦しいというべきか。
年頃に相応しいはしゃぎ様で女子三人が俺の方向けて近づいてくる。
冷静に見れば初見でちょっと気になる男の子に軽く旗でも立てておこうといった様子なのだろうが、契は取り合えず面倒事の匂いを感じて校舎へと歩みを進めた。
だがその瞬間だ、予想外にも伏兵が構えていた。
前に振り向いて足を前にだした瞬間、前方に衝撃を感じる。
こちらとしては大した衝撃ではなかったのだが、衝突した背丈の小さな少女には体のバランスを崩す程の圧力を持っていたらしく、「あっ。」という短く弱々しい悲鳴と共にコテンと尻餅をついてしまう。
「おっとすまん。」
そう言って手を差し伸べたのは良いのだが、
少女は俺の差し伸べた手から軽く二メートルは後ずさった後即座に立ちあがりダッシュで走り去っていく。
去り際に見えたのは目元を軽く隠す程度に伸びたさらさらの前髪が靡くのと、その割に短い後ろ髪を跳ねさせながら去っていく後ろ姿だけであった。
少女が去って行くのを眺めながらポカンとしていると、迂闊な事に後ろから先程の三人の少女に声を掛けられてしまう。
「あれぇー?もしかして夜永君!?」
先頭に立つのは如何にも私可愛いでしょオーラをむんむんと放つ若干化粧の厚い女子。
後ろにも二人控えているがそちらには視線を向けずに仕方なく顔を見た素直な気持ちを伝える。
「すまん、誰だ?」
「えーっ!本気で覚えてないのぉー!?同じ中学の臼井佳奈だよぉー!」
ふむ、本気で覚えていなかった。
面倒な上時間を無駄に浪費したく無かったため、俺は穏便にその場を離れようと頭を働かせる。
「ああ、そうだったな、臼井何某、だったな、同じクラスでは無かったと思うんだが。」
「うんー、別のクラスだったねー!ってーか夜永君イメージ変わったぁー!?なんかちょっとカッコよくなった気がするんだけどぉー!」
いちいち無駄に語尾を伸ばす奴だ、それに距離に反して無駄に声が大きい。
もう少しその会話文を書く作者の身にも成って欲しい物だ。
おっと、ついメタな事を考えてしまったが、今はそんな事よりも校舎の構造を把握する方が先決だ。
俺は彼女のメイクに付いて一言助言を呈する事でこの場を離れる妙案を思いつき、即座に口にする。
「いや、臼井何某、久しぶりだな、ところでちょっと顔面に塗りたくったファンデーションが余りの分厚さに地割れを起こしている様に見えるのだが、トイレで少し手入れした方がいいのではないか?まぁ人間の見た目では無いと言っても年頃の女の子と言えばやはり外見を気にするものだろう?」
ん……?何か言い間違えた様な気がするが、まぁ恐らく大体の意味合いは通じただろうと思い、臼井何某の顔を見るとみるみる内に紅潮し、何故か眼の端に涙を浮かべかけた所で勢いよく振り返り走り去っていく。
後ろに従う二人の女子は
何が起こったか直ぐには理解できなかったようだが取り合えず臼井何某を追いかけて走り去っていく。
メイクが崩れた姿をヒトに見られただけで涙を流すとは、やはり女心とは複雑な物なのだなと、俺は身の周りの女性に対する態度により気遣って行かなければならないな、と心に決めるのだった。
ヤレヤレとようやく校舎へ足を向ける契の遥か後方、そこには契を見つめる、いや、正確には見つめ続けていた一人の少女の姿があった。
校舎へ向かう契の姿を見て少女は呟く。
「うふふっ、まさか又会えるだなんてっ。しかも同じ学校に通えるだなんて…………私の―――私だけのチーくん。」
一先ず彼女は、今さっき自らの愛しの彼へちょっかいを掛けようとした三人組と、折角の彼の好意を不意にした一人の少女の容姿を頭に留めて、これからの事を考え、絶えずその笑みを零し続けるのだった。