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きーどあいらっく!  作者: 倉石さん
11/12

第二幕 『Prologue』

さぁやっと始まりました、第二幕!!!一番、先頭を行くのは本作主人公契!2番先頭に続くのはサブヒロインと呼んでいいのか渚希理子!

おーっと!!3番アンジェを追い抜いて詰めるのは…!詰めるのは…!!

4番※ネタバレの為自主規制※!!

っそして虎視眈眈と後方で一位を狙う今作期待のロリ枠リン!!

ここが最後尾だと思われた、が!!!その後ろにはっ……!?



本作をお読み頂いている皆様、見事なまでの糞茶番でした。

本当にごめんなさい、そしてありがとう。


※おまけ※この物語はフィクションです(以下省略

三寒四温のローテーションが運良く後者に当たった今日、私立狗ヶ峰学院の入学式が予定通り四月の頭に執り行われている。

桜並木に挟まれた多少長い坂を登った小高い丘に広がる敷地からは街を一目で見渡せる上、築後およそ十年程という小奇麗な校舎と、私立特有の自由な制服デザインが人気に箔を付け、今年の入学試験で結構な倍率を誇った名門校である

新入生を迎える晴天と暖かい風、舞い散る桜の花弁、ここ数日の非現実的数々の出来事が嘘のようではないか。

余談だが、狗ヶ峰というのはこの学校の名称であると同時に、学校が構えられたこの小高い丘いや山というべきなのかは定かではないが、それ自体に付けられた名前でもある。

そのためご近所では結構な知名度を誇っており、この周辺に住む子供なら大抵が狗ヶ峰を進路の一つに選択するという噂だ。

またこの学校の特徴として、入学試験として行われる独自のテスト問題のレベルが全国的に見て割と高い位置にあるという事があげられる。

また通常の高校と変わらず特色化選抜やAO入試等でも少数の生徒を募集しているが、その面接や作文、求められる内申たるや、中学での期末学年順位が三十位を常に越えるような生徒でも合格は五分五分と言われている為、毎年そちらの選抜では一桁台の生徒しか入って来ない。

さて、閑話休題。

何だこの視線は。

入学式が取り行われる体育館を目指し、親と共に、入学前からの知人と、また一人で、という各々の形で歩みを進める人々。

その大多数がチラリないしジーっと俺を見ては歩幅と歩行速度の差により視界後方に消えて行く。

特に女子生徒の視線が若干多い気がするのは気のせいではないだろう。

ふむ、今日もこなした日課のランニング後にはしっかりとシャワーを浴びて来ている。

体臭が不快であるという理由ではないだろうし、入学式に左腕を白布で吊っていると言ってもここまで見られる様な事では無いだろう。

ふむ、と無表情な顔で考えていると聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「あっ、いましたいました、契さん~」

おっとりとした声で少し離れた所から此方に手を振っているのは、入学式前随分と世話になってしまった女性であり、俺と同じ契約者である所の渚 希理子だ。

しかしゆっくりと此方に歩いてくるその姿には少なからず見覚えがあるのだが、希理子より少し背が低く長めのポニーテールを尻尾の用に揺らす見覚えの無い女の子が一緒に隣に並んで歩いてくる。

「ご入学おめでとうございます、契さん。」

何時も通り途中まで三つ編にされた柔らかく緩やかにウェーブの掛かる髪を束ねて左肩から垂らしてふわふわと揺らし、ブルーのアンダーリムフレームの眼鏡越しに向日葵の様な笑顔を振りまく希理子。

それに比べ隣を見ると敵愾心としか言えない感情をむんむんと漂わせこちらを睨む見知らぬ女の子。

「三年生は始業式からだったと思ったんだが、大分早く来てるんだな。」

面倒事の匂いを察して完全に視線を無視しそう答える俺に向け更に強い敵意が送られてくる。

「ええ、私実は生徒会に所属しているんです。だから入学式からの参加なの。まぁそれはおまけみたいな物で、本当は契さんに入学のお祝いを述べるために少し早く家をでてきたんですけど。」

笑顔を増す希理子に反比例して不機嫌さを増量させこれでもかと押し出してくる女の子が無視しきれない雰囲気を溢れさせている。

まるで噛みついて来いと言わんばかりだ。

「ふむ、それは礼を言わんとな、わざわざありがとう。それで、その隣のちっこいのは妹か何かか?」

と、口走った瞬間それは沸騰した。

「だ…だ、誰がチビだ誰がああああああああああああああああああ。」

何て沸点の低い子なんだろう。

その背丈からは考えられない様な大声を上げて隣の女の子が切れる。

「さっきからオレの希理子に慣れ慣れしくしやがって、先輩相手なんだからケイゴを使え敬語を!それにオレは妹なんて歳じゃねぇ!これでも高校三年だっつーの!」

それはそうだと俺は語尾を正す。

「ふむ、そのチビっこい背丈で高校三年生ですか、ちゃんと栄養は摂取していますか?俺も最近痛い目に有いましたから、毎日カルシウムを欠かさず取る様にしていますよ。」

「だからチビっつーんじゃねーよ!触れんな!もうそこに触れんなっばかばかばーか!!だいたいお前の栄養事情なんて聞いてねーし!ねーし!」

「ふむ、うちのリンとアンジェを足して二で割った様なお方ですね。言う事が若干正論を含んでいる点を除けばですが。」

「言葉使いなら私は別に気にしませんよ?」

微笑む希理子と切れる少女、まるで対極な二人を見て何となくその関係性が理解できた気がする。

「紹介が遅れてしまいましたね、彼女は狗ヶ峰 優ちゃん、私のお友達兼仕事仲間といった所です。そして彼は夜永 契さん、春休みの少し前に知り合ったお友達です。」

希理子の親切な紹介を聞いてその苗字に引っ掛かりを覚える。

狗ヶ峰、紛れもない地名姓であるのだが、問題はそれがこの学校の名前と同じである事だ。

無表情な俺の顔から何を悟ったのか希理子が補足を加える。

「苗字を聞いてわかったと思うけれど、優ちゃんはこの学校の理事長のお孫さんなんです、あと生徒会長も務めているんですよ。」

「そんで希理子が副会長ってわけだ、わかったか後輩!わかったら口でクソたれる前と後にサーと言え!」

「Sir , Yes Sir.」

随分と海の香のする口上に、つい複数いる心の恩師の内の一人を思い出して返事をしてしまう。

 「ふざけるな!大声出せ!タマ落としたか!」

 「―――さて、悪ふざけはこの辺りにしておかないと入学式で生徒会長が遅刻なんてしたら両生動物のクソ扱いを受けますよ、狗ヶ峰先輩。」

 「ンだよ、折角ノって来たってのにー、って!のわー!もうこんな時間かっ!おい希理子急ぐぞ!」

 「優ちゃん~そんなに走ったら転びますよ~?それじゃ、契さんまた後でお会いしましょう。」

 そういって軽く手を振り笑顔でとてとてと会長を追いかける希理子を見る。

 「―――ふむ、飼い犬の面倒を見るのはやはり何処でも大変な様だな。」

と、家に留守番させてきたリンとアンジェの事を思い出しながら、俺は体育館への道を小走りで進むのだった。




塗布されたニスとワックスがまだ真新しい床材が天上の証明を程良く照り返し、多様な面持を浮かべる新入生の顔を下から照らしている。

大多数は真っ直ぐ壇上を見つめる者、点在する隣とこそこそと囁き合う者、堂々と眠りこける者など各自様々な構えを持って入学式典は進んでいった。

 ―――生徒会長、式辞。

 行事的でいて少し優しさを持たせた様な声の司会の生徒、生徒会副会長である希理子の声がスピーカーを通して体育館内の空気を余すことなく振るわせる。

 新入生男子の一割程の視線が先程からその司会席と壇上を行ったり来たりしている。

左肩から垂れた黒髪を持ちあげるあのボリュームと母性的な笑顔に魅せられた男子は少なく無いようだ。

 そんな観察を行っていると、無駄に喧しい、ダンダンダンダンッという足音と共に、先程の小さな少女、狗ヶ峰 優が舞台袖から姿を現した。

 そしてスタンドマイクの設置された演説机の前に立つ。

 「ふむ……。」

 思わず漏らした呟きは体育館内のざわめきにかき消された。

 ―――それはまるで、晒し首の様だった。

 まぁただ単純に背が低くて演説机から頭しか出ていない様に見えるというだけの話なのだが。

 舞台袖から役員と思わしき生徒が一抱え程の踏み台を持って音も無く演説台にかけ寄り、すぐさま折り返して舞台袖に消えて行った。

 「―――ゴ、ゴホンッ。」

 ようやくその平らな胸から上がこちらから見えるようになり、少々顔を赤らめた我が校の生徒会長はワザとらしく咳払いをひとつ。

 そして顔を上げ、此方を見渡した生徒会長の顔にもう戸惑いは感じられなかった。

「新入生っ!まずはおめでとうっつっといてやるよ!」

 なるほど、生徒会長というのも伊達や酔狂でなれた物では無いな、と実感する。

 語り口は多少乱暴ながら恐らくはマイクが無くても体育館中に聞こえるであろう、リンとした声。

 堂々と全体を見据える迷いの一切感じられない強い意志を持った瞳。

 それらから醸し出されるオーラはまさにカリスマと言うべきか。

 「お前らの中では、ひとまず高校受験が終わったからっつて安心してる奴が少なからずいるだろうと思う、けどな!その気持ちで居ていいのは、これまでだ!オレはそんな気持ちで入学してきて、落ちぶれていった奴を何人か見てる!中学の頃は勉強が出来た、だけど高校に入ってズルズルなんて奴、そこらを探せば数え切れないくらいいやがる!そういう奴らは大学受験を前に、大学に入って、就職の時に、絶対に後悔してる!だがその時はもう手遅れだ!そんでお前らは今そういう奴らが居る事を知った!だから知らなかったじゃ済まされない!大切なのは各自が、常に眼の前に何か目標をぶら下げておく事だ!お前らはまだヒヨッコだ!眼の前のニンジン目がけて走る馬になれ!そんなような事を続けてりゃ、そのうち気付いたら自分の意思で走れる様になってる!オレが保証してやる!」

 礼儀などクソ喰らえ。

 圧倒的に独善的なスピーチに先程まで顔を伏せていた生徒や話していた生徒、よそ見をしていた生徒、残らず、一人残らず、今は壇上を見つめている。

 「さあて、厳しい話はこれくらいにしといてやる!長ったらしいスピーチなんて校長だけで十分だっ。」

 張り詰めていた空気が彼女の突然の笑顔の一言でさっと崩れ、全体から笑いが零れる。

 教員席に座った校長ですら苦笑いを浮かべつつ、だが信頼した視線を壇上に送っている。

 「この学校は楽しいぞ!自由で、何よりも生徒の意思が尊重される!勿論好き放題やっていい訳じゃねーぞ?責任を負うのもまた自分自身だ。だけどな、その中で、自分のやるべき事、やりたい事、楽しめる事を見つけられたら、それをどれだけでも追及できる三年間はお前らにとって忘れられない物になる!間違いなくな!」

 優はそこで一息ついて、新入生の顔を見渡した。

 そして、うん、と頷いて顔を上げる。

 「不安な顔も、わくわくしてる顔も、楽しそうな顔もそれぞれだ!だけどお前ら一人残らずいい眼してるぜ!」

 勿論の事、実際に全員の瞳を見た訳ではないはずだ。

 だが彼女の言葉と表情には、生徒達を活気づけ、勇気づける様な何かが感じられた。

 「三年間、精一杯楽しめよ!!以上だ!」

 敢えてマイクを切って叫ばれた最後の声はやはり想像通り、体育館中どころか、恐らくは生徒の心の中にまで響き渡り、盛大な拍手を背に彼女は舞台袖に消えて行った。

 こうして閉会の辞に伴い新入生総勢一二〇名が、新たにこの学校の生徒として迎え入れられたのだった。


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