第一幕 『ぷろろーぐ』
このお話はフィクションです。
現実に存在する人物、国家、組織、団体等とは一切関係ありませんのでご了承ください。
第一幕までは書きためた物があるのでさくさく更新して行きます。
その先は……わかりません。
尚、誤字脱字当有りましたら感想等で報告して頂けると大変ありがたいです!
―――空を見上げる。
いや、見上げる必要性など本来は存在しない。
校舎の屋上に立つ自らの瞳と、空とを隔てる様な建築物などこの街には存在しないのだから。
しかし、この時の空を見上げるという行為は、その行動を起因した自己の感情と相対するために無意識下で行われる動作であり、別段、蒼白く光を纏う満月や、申し訳程度に散然と輝く星達に対して美辞麗句を並べる為に行われた物ではない。
だが、自己の感情と相対する、という観点からもこの行動は矛盾を孕む事になるだろう。
それを示唆するかの如く、屋上の鉄柵に手を掛け立ちつくす俺の横でぺったりと冷えたコンクリートに座り込んだ少女がこちらを不思議そうに見つめている。
幼さの残る上目遣いの瞳は純粋で、一切の穢れを含まない。
月の光を受けた真っ直ぐな銀糸の頭髪は夜風に揺れる度に光の粒子を振りまくような錯覚さえ抱かせる。
だがそんな彼女の瞳を見ると、やはり想像してしまうのだ。
まるでそう―――
一致するはずの鍵穴に、差し込んだ鍵がつっかえた時のような違和感。
単純に言えば、期待を裏切られた際に人間が見せる瞳。
人の視線から読み取れる感情なんて、ほとんどが被害妄想だ。
自分がそう思っているから、そう感じてしまう程度の物。
本人の考えつく事が出来た可能性の中から選びとった一つの答えに過ぎない。
首をかしげた少女が問う。
「うれしいの?」
「いや、俺は喜んだりしない。」
「じゃあ怒ってるの?」
「いや、俺は怒ったりしない。」
「泣いてるの?」
「いや、俺は悲しんだりしない。」
「楽しいの?」
「いや、俺には楽しむ事なんて出来ない。」
「じゃあ……なんでお空を見るの?」
―――一瞬の沈黙の後に答えを返す。
「―――リンにはまだ理解できないさ。」
形だけ繕った笑顔を少女へと向ける。
「むぅ、パパのイジワル……。」
―――理解できるはずもない、自分でだって理解できていないのだ。
ほんのりと朱に染まった頬を膨らませて夜の街並みへと視線を移すリン。
そんな表情さえ何となく絵になるのだから末恐ろしい。
先に言っておこう。
俺はロリコンだ。
ただし、それが一般的に言われる【ロリータコンプレックス】という枠に当てはまるかと言われれば、それはわからない。
言葉にはたくさんの意味があるのだから。
閑話休題。
「ところでリン、相談なんだが。」
「なーに?」
機嫌を損ねたのか、そっぽを向いたままそっけなく答える。
「いまさらだが、パパはやめないか?」
ちなみに俺はまだ一五歳、世間的に言う高校一年生だ。
時代が時代なら元服という形でパパになる事も不可能ではないだろうが、残念ながら今の時代はタバコもお酒も二十歳からだ。
「じゃあお兄ちゃん?」
「パパ以外なら好きに呼んでいい。」
投げやりに答えを返す。
そんなどうでもいい事に頭を抱えてうんうんと悩むリンを傍目に俺は再び空を見上げた。
そして静寂の中に佇む、つい最近まで通っていた中学校舎に、大の大人の情けない悲鳴があがるのを耳にし、無感情に思う。
本から得られる知識はやはり馬鹿に出来るものではないな、と。