6サイズ・デイズ
六畳間のこぢんまりとしたこの小汚い空間がもしスタンダードであったなら、世の中イイ感じに住みやすくなること間違いナイ! と、僕はマジに思っている。
「ぐわわーっ、もーうダメだ! ガマンできないっ」
寒さを凌ぐためにしがみついていたコタツからガバッと熱り立つと、足元に散乱している週刊誌やいつ洗濯したんだかわからない衣類を「うりゃっ」と足で一気に払いのけた。
部屋にたったひとつだけしかない磨りガラス窓に猛ダッシュで張り付き、ガラッと両手で勢いよく開け放つ。
「はっ、はっ、はっ、はあ~あ……。し、死ぬ~」
臭気漂うむさ苦しい密閉空間から解放された僕は、窓の桟に寄りかかるようにグデッと倒れこんで、そのままズルズルと畳の上に滑り落ちた。
そのとき、くたばりかけた僕と対照的に落ち着き払ったヤツの声がした。
「なんだなんだ、大げさだな。こんなことぐらいで死ぬわけないだろ? 寒いんだから無駄なエネルギーを使うなよ。言っとくけど酸素だって大事な資源なんだからな」
コタツでぬくぬくと温まり偉そうなことを言いながら、ヤツはマンガ週刊誌のページをパラリとめくった。
僕と話している間でもページから目を離さない。
人をコケにしたようなヤツの態度に思いっきり頭にきた僕は、起き上がるとヤツの手から週刊誌をまきあげ力いっぱい畳に叩きつけた。
「あっ、何するんだ。いいところだったのに……。地球滅亡まであと一か月なんだぞ。イスカンダル星から戻るのが間に合わなかったら、地球平和の危機じゃないか」
「何が地球平和の危機だ! オレの平和を乱しやがったくせにっ。人ん家に来て屁こくな!」
「だってガマンはよくないだろ? カラダに悪いしさ」
「何だと!」
「おまえだって今さっきガマンできないって言って窓を開けたばかりじゃないか。アレコレ俺のことばっか言うなよな。細かいことを気にするから余分な汗をかいて、生え際がヤバくなるんだぞ」
「うっ……!」
僕は思わず自分の生え際に手をあてた。ヤツの言う通り汗をかいている。窓を開けているにも関わらずに、だ。
――負けた。今日も、負けてしまった……。
ひと言も言い返せない僕の顔を見上げ、ヤツは勝ち誇ったようにニヤリと笑みを浮かべた。
「ふふん、今日も俺が勝ったな。だから今日は、お前がこの部屋の掃除をする……んだ……ピーッ、ガガガ……」
ヤツは、最後に意味不明の言葉を吐いてガクリと頭を下げると、前方にゆっくり倒れていった。
「も、もしもし!」
『はい、お客様相談室です。どうなさいましたか?』
「あの、昭和時代の暮らし体験を申し込んだ者ですけど。やっぱ相手役のロボット変えてもらえます?」
『はい、結構ですよ。次のご希望はどのような……?』
「えーと、ですね。やっぱ友情体験の次は、恋愛体験かな。そうだ、神田川がいいな。赤い手ぬぐいをマフラーにしちゃったりして。憧れだよなあ、昭和マニアには……」
『わかりました。次は、昭和の同棲体験コースですね。すぐ手配いたします。ありがとうございました』
――いや~、ホントいい時代だよな。昭和は……。
僕は、満足して携帯を切った。
百年前の時代のこのノスタルジックな六畳間をスタンダードにすれば、荒みきった今の世界はもっと平和になるだろう。
そう信じているのは僕だけかもしれないが、マジに僕はそう思っている。
読んでくださってありがとうございました。