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心の檻を開ける鍵  作者: 宝月 蓮


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2/15

放課後の図書室にて

 この日の全ての授業が終わり、放課後になった。

 ラ・レーヌ学園は他国からの留学生以外の生徒は各家の王都の屋敷(タウンハウス)から馬車で通学している。

 放課後になると、各家からの迎えの馬車が来るまで生徒達は思い思いの過ごし方をしているのだ。

 サシャはヴァランティノワ公爵家からの迎えの馬車を待つ間、何となく一人で図書室へ行ってみようと思った。


(程良く暇つぶしが出来る面白い本でもないかな?)

 サシャは本棚から本を手に取っては戻してを繰り返している。

 普段あまり本を読まないサシャ。

 どの本が有名で面白いなどはほとんど分からないのだ。

(良い感じの本、ないな……)

 サシャは持っていた本を本棚に戻し、図書室を出ようとした。

 その時、図書室の奥にある本を読んだり勉強をしたりするスペースに、とある令嬢を見つけた。


 ふわふわとしたストロベリーブロンドの髪に、大きくてくりっとしたアメジストの目。白磁のきめ細やかで柔らかそうな肌で、小動物や人形を彷彿とさせる可愛らしい顔立ち。

 マリエルである。


 マリエルは分厚い本を読みながら、ノートに何かをメモしていた。

 アメジストの目は、真剣である。絶対に何かを成し遂げようとする強い意志が感じられた。


(マリエル嬢だ。何やってるんだろう?)

 サシャは少し気になった。

 しかしこの日の昼休み、自分がマリエルに何をしたかを思い出す。

 マリエルに自己紹介をし握手をした際、サシャはマリエルの手にキスをした。

 冷たく柔らかな感触をよく覚えており、サシャは思わず自身の唇を指で触れた。

 マリエルはサシャから手にキスをされたことに少し怯えていた。

 双子の妹セシルに守られながら、プルプルと震えるマリエルの姿。潤んだアメジストの目。

 やはり、ヴァランティノワ公爵領で見たうさぎを彷彿とさせた。

(マリエル嬢は、きっと周囲から大切に守られて育てられたんだろうな。……俺なんかが関わるべき存在じゃない)

 フッと自嘲し、サシャはそのまま図書室を出ようとした。

 しかしその時、マリエルと目が合った。

 マリエルの潤んだアメジストの目は、しっかりとサシャを捉えており、まん丸に見開かれていた。

(あ……目が合った……)

 ここで目をそらして図書室を出るのも何だか変なので、サシャはニコリと笑いマリエルの元へ向かう。


「やあ、マリエル嬢。何をしているんだい?」

 なるべく軽く明るめの声を出すサシャ。

「えっと、少し調べ物を……」

 そんなサシャに座ったまま少し後ずさりをしつつ、マリエルは答える。

「あの、セシル様なら剣術の練習をしに、訓練場にいらっしゃると思いますが」

 どうやらマリエルはサシャがセシルを探していると思ったらしい。

(俺、怖がられていみたいだな。そんなに俺にいなくなって欲しいって意味なのか?)

 サシャは内心自嘲する。

「知ってるよ。別に俺はセシルを探しているわけじゃないけど」

「左様でございましたか。それは失礼しました」

 マリエルは肩をすくめた。

 サシャはマリエルの向かい側に座る。

 マリエルはそんなサシャに少し戸惑っていた。

 そのアメジストの目は、サシャと分厚い本を行ったり来たりしており反応に困っているようだ。

(うわ、マリエル嬢、困ってるな)

 サシャは苦笑する。

「マリエル嬢、その、今日は悪かったね。昼休みの件」

「あ……」

 マリエルの白磁の頬に紅がさす。昼休み、サシャから手にキスをされたことを思い出したようだ。

 アメジストの目は潤んでいる。

「その、少し驚いただけですから」

 マリエルは眉を八の字にして肩をすくめた。

「そっか。……マリエル嬢、何読んでるの? その本、物凄く分厚いけど」

 会話を終わらせるのも気が引けたので、サシャは何となく質問してみた。

「化学の専門書です。特に、鉄の酸化反応について詳しく書かれています」

 マリエルはそっと専門書を閉じて、自身の顔の前に持って来た。

 マリエルが読んでいた専門書は、マリエルの顔よりも大きくて分厚い。

「うわ……難しそう」

 あまり勉学に真剣に身を入れていないサシャは苦笑した。

「というか、マリエル嬢、そんな小さな手でよくその分厚くて大きな本を持てるね。俺が持とうか?」

 軽薄にニヤリと笑うサシャ。

 するとマリエルはサシャに軽く抗議する。

「サシャ様、本くらい私も持てますから」

 専門書をギュッと抱きしめて、上目遣いのマリエル。アメジストの目をうるうるとさせていた。

 まるで後ろ足を強く打ち付けて不満を伝えるうさぎのようだ。

「そっか。悪いね」

 フッと笑い謝るサシャ。

(……何か、可愛いな)

 少しだけ、サシャは口元をニヤつかせている。

「で、鉄の酸化反応だっけ? 何でそれについて勉強してるの?」

 サシャはテーブルに右肘を付き、マリエルの方に身を乗り出した。

「フォワ伯爵領には鉄鉱山がありまして」

 控えめで、鈴が鳴るような声でマリエルは話し始める。

「あ、そういえばそうだったね。金属資源が少し乏しいこの国だと、鉄鉱山を持つフォワ伯爵領はかなり重宝される」


 ナルフェック王国は製糸産業と農業が盛んで食糧が豊富だが、金属類の資源が乏しいのだ。


「はい、ありがたいことです。(わたくし)は鉄鉱山のある領地で育ちましたので、鉄に触れる機会も多かったのです。それで、鉄が空気……酸素に触れて酸化する際に熱が生じることに気付きましたの」

 ふふっと表情を綻ばせるマリエル。控えめでが、その表情は楽しそうだった。アメジストの目も、キラキラと輝いている。

(へえ、そんな表情もするんだ)

 そんなマリエルを見て、サシャはサファイアの目を丸くした。

「それでですね、少しこれに触れてみてください」

 マリエルは懐から金属製の小さな瓶を取り出した。細かな花柄の模様が彫られており、意匠が凝らされた可愛らしい小瓶である。

 サシャは手を伸ばし、マリエルの小瓶を手に取る。

 すると、じんわりと熱が手に伝わった。

「温かい……!」

 サシャはサファイアの目を丸くした。

「そうでしょう。小瓶の中に、鉄粉と水と塩を入れておりますの。先程、鉄が空気に触れて酸化することで熱を生じると申しましたが、その速度は遅いので、通常は熱に気付くことはありません」

「え? でもこの小瓶は温かいけれど。鉄が入っているんだよね?」

 サシャはマリエルの言葉に首を傾げた。

「はい。鉄と空気だけでは酸化反応が遅いので熱に気付きません。ですので、水と塩を入れて鉄が酸化する速度を上げているのです。鉄が酸化する速度が速いと、熱を感じやすくなるのですよ。もし小瓶の中に酸素がなくなったら、蓋を開けてまた空気を入れたら良いのです」

 少しだけ得意げな表情のマリエルである。その声は軽やかに弾んでいた。アメジストの目は、生き生きとしてキラキラと輝いている。

「へえ、そうなんだ。面白いね」

 サシャは思わずマリエルの話を聞き入っていた。いつの間にか、より前のめりの姿勢になっていたのだ。

「そうでしょう」

 マリエルは鈴の音を鳴らすような声でクスクスと笑っている。

「サシャ様はもう今日のお昼休みでお気付きでしょうけれど、(わたくし)は冷え性なのです」

「そうだったね」

 サシャは改めて昼休みにマリエルの手にキスをしたことを思い出し、自身の唇に触れた。

「冷え性のせいで冬はきついので、せめて少しでも手先などを温められるようにと思いまして、この小瓶を作りましたの。それで、現在は改良中です」

「改良? どうして? もう十分(じゅうぶん)温かいから問題ないと思うんだけど」

 サシャはきょとんとしていた。

 マリエルはふふっと微笑む。

「今後、フォワ伯爵家が経営するフォワ商会でも新商品として売り出したいと思っておりますので」

 貴族令嬢らしい上品さのある、溌剌とした笑みのマリエル。

 そのアメジストの目には希望が満ち溢れているようで、煌めきが止まらない。

(マリエル嬢……少しおどおどした子なのかと思ったけれど、こんな風に笑うのか……)

 サシャは思わずマリエルの煌めいている笑みに見惚れていた。

読んでくださりありがとうございます!

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舞台と時系列が大体同じな物語です→『地味令嬢と地味令息の変身』
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