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心の檻を開ける鍵  作者: 宝月 蓮


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13/15

相談

(やってしまった……)

 とある休日の午後、サシャは自室で大きなため息をつき頭を抱えていた。

 風邪は完全に治ったのだが、現在他の問題を抱えていたのだ。

 脳裏に浮かぶのはマリエルの姿。

(マリエル嬢 がお見舞いに来てくれた時……気持ちが溢れ過ぎて、思わず俺の想いをマリエル嬢に告げてしまった……!)

 再び大きなため息をつき、サシャは片手で自身の顔を覆った。

(あの時のマリエル嬢、完全に困っていただろう。……多分、嫌われたよな、俺)

 サシャはもう何度目か分からない大きなため息をまたつくのであった。

(マリエル嬢への気持ちは嘘じゃない。でも……今の関係は……確実に壊れるかもしれない……)

 サシャはそれが怖かった。


 その時、自室の扉がノックされる。

 セシルである。

「サシャ、貴方最近ずっと暗い顔しているわね。風邪は治ったはずなのに」

 サシャの部屋に入って来たセシルはやや呆れ気味である。

「放っておいてくれよ」

 サシャはセシルを一瞥した。

「そういうわけにはいかないわよ。領地にいるお父様とお母様から次期当主としての課題が出されたのだから」

 セシルは相変わらず呆れたようにため息をついた。

「ヴァランティノワ公爵家は、セシルが継げば良いだろう」

「そういうわけにはいかないでしょう。このナルフェック王国では、基本的に性別問わず長子が家督を継承するのがルールなのよ。そのルールに従えば、サシャがヴァランティノワ公爵家次期当主のはずよ」

「セシルは真面目過ぎて損するぞ」

「煩いわね。まあ、フォワ伯爵家みたいに例外もあるけれど」

「フォワ伯爵家……」

 マリエルの家である。

 サシャは以前マリエルから言われたことを思い出す。


『……(わたくし)には兄がいるのです。でも兄は体が弱いので、フォワ伯爵家は(わたくし)が継ぐことになりました。(わたくし)が、どこかの家から婿を取って、フォワ伯爵家や領地を強くして、お父様とお母様とお兄様、そして領民達を安心させたい。そう思っています』


「セシルがヴァランティノワ公爵家を継いで、俺がフォワ伯爵家……マリエル嬢のところに婿入りするのは?」

 思わずサシャはセシルにそう聞いていた。

「は……!?」

 セシルはサシャの言葉にサファイアの目を大きく見開いた。

「貴方が……マリエルと……!? 貴方、マリエルをどうするつもり!?」

 セシルは勢い良くサシャに詰め寄った。

「この前マリエル嬢がお見舞いに来てくれた時……俺の気持ちを伝えた。マリエル嬢が好きだって」

 セシルから目をそらしながら、サシャはそう正直に言った。

「何ですって……!?」

 セシルはサファイアの目を更に見開いて絶句した。

「サシャ、貴方……マリエルを弄んでいるんじゃないでしょうね……!?」

「本気だよ。マリエル嬢は……フォワ伯爵家の為に頑張っていて……それでいて、危なっかしくて放っておけないし……。俺が、守りたいって思う。いや、それだと烏滸がましいな。……マリエル嬢の隣に並べる俺になりたいんだ」

 それは、サシャの本心だった。サシャのサファイアの目は、真っ直ぐである。

「……本気なのね」

 そんなサシャを見たセシルは、表情をほんの少しだけ和らげる。

「まあ、貴方が十歳の時、色々あったのは知っているわ」

 セシルは軽くため息をついた。

「まあそのせいで私の方に色々と苦情が来たのだけれど」

 セシルは恨めしそうにサシャを睨む


『ええ! サシャ様とセシル様、どちらがヴァランティノワ公爵家を継ぐかまだ決まっていないのですか!? じゃあ私、サシャ様と結婚しても公爵夫人になれないかもしれないということなのですね!? 公爵夫人になれないのなら、サシャ様と一緒にいる意味はありませんわ。せっかく容姿と身分が良いから近付いたのに』


 かつて好意を抱いていた男爵令嬢にそう言われて以来、サシャは異性に対して軽薄に振る舞うようになっていたのだ。


「それは……悪かったって」

 サシャは諦めたように眉を八の字にする。

「でもまさか、貴方がマリエルにね……」

 セシルはほんのりと口角を上げていた。

「マリエルは私の友人でもあるわ。サシャ、マリエルを傷付けることだけは許さないから」

「ああ、分かってる」

 サシャは真剣な表情だった。

 そんなサシャに、セシルはどこか満足したような様子になる。


 しかし、次の瞬間、セシルはうーん、と考え込んだ。

「でもサシャ、いくら貴方がマリエルを大切に想っていて、フォワ伯爵家に婿入りまで考えているとしても、正直な話今のヴァランティノワ公爵家だと、身分以外フォワ伯爵家にとって旨味がないと思うのよね」

 サシャは固まった。

「そういったこと、全然考えていなかった……」

 ただマリエルへの想いだけで突っ走っていたサシャである。

「全く……」

 セシルは呆れながら軽くため息をついた。

「ナルフェック王国で貴族の恋愛結婚が増えて来ているとはいえ、結婚は家同士のものでしょう。お互いの家にメリットがないと」

「メリット……か」

 サシャは腕を組み、考える素振りをする。

「ヴァランティノワ公爵領は……小麦の産地。生産量は、国内で四位。医療に特化したヌムール公爵家や、第二の王家であるメルクール筆頭公爵家と比べると地味な方だよな……」

「そうよ。公爵家の中では弱い方なのよ。領地に鉄鉱山を持つフォワ伯爵家はナルフェック王国でも貴重だから、もっと強い家と繋がるべきだろうし」

「色々と考えるべきことがあるんだな……」

「そうよ」

 セシルは苦笑した。

 サシャは今まであまり勉強をしてこなかった自分を恥じた。

「でも、ようやく今、サシャとヴァランティノワ公爵領を今後どうしたら良いか話し合えるわ。お父様とお母様からも、領地や公爵家の今後について考えるよう課題が出されていたもの」

 セシルはフッと口角を緩めた。

 どことなく嬉しそうな表情である。

「今まで、悪かったよ」

 サシャは眉を八の字にして肩をすくめた。


 しばらく、サシャとセシルはフォワ伯爵家との繋がりや、ヴァランティノワ公爵家、領地の今後について話し合った。

「……まだどうなるかは分からないけれど、フォワ伯爵家がヴァランティノワ公爵家と繋がりを持つメリットを感じてもらう為に、小麦だけでなく領地を工房都市化してみるのはどうだろう? フォワ伯爵家の鉄鉱山から採掘される鉄鉱石を加工したりとか」

 サシャの中に、その考えが思い浮かんだ。

「工房都市……確かに、それならフォワ伯爵家も納得しそうね。ヴァランティノワ公爵家の新しい事業にも出来そうだわ」

 セシルは腕を組み右手を頬に当てて少し考える素振りをした後、納得したように頷いた。

「本当か……!」

 サシャは目の前に一筋の光が見えたような感覚になった。

「でもサシャ、まずはマリエルの気持ちを確認することからでしょう。順番が逆よ。このままだとマリエルは逃げ道を失って、強制的に貴方と結婚させられることになるわ。それだとマリエルが可哀想よ」

 セシルは呆れたようにため息をつき、苦笑した。

 しかし、どこか表情を柔らかかった。

「ああ、そうだな。近々、またマリエル嬢と話をしてみる。多分、どんな結果になっても後悔しないと思う」

 サシャの表情は明るかった。

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舞台と時系列が大体同じな物語です→『地味令嬢と地味令息の変身』
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