ヒロインさん、あなたまだ諦めてなかったんですね? ~いいえ、私が探していたのは王子様ではなく、貴女だったみたいです~
前作「婚約者が「前世の記憶」で悪役令嬢ぶっていますが、根が善人すぎて自爆ばかりしています。~新しい婚約者候補の方、残念ですが出番はありませんよ~ 」の続きとなります。
単品でも読めるように頑張りましたが、ワケワカメだったらすみません。
ある晴れた日の午後。
俺、フェリクスは、カフェのテラス席で頭を抱えていた。
向かいに座っているのは、婚約者のリリアナ。
そしてその隣で、不機嫌そうにショートケーキを突っついているのは――かつて俺を奪おうとした男爵令嬢、ミランダだ。
「……おかしい。絶対におかしいわ」
ミランダが小声でブツブツと呟いている。
(私の「前世の記憶」によれば、ここは乙女ゲームの世界。私はヒロインで、このカフェで悪役令嬢リリアナに紅茶をかけられるイベントが発生するはずなのに……)
ミランダはチラリとリリアナを見た。
リリアナは、満面の笑みで自分の皿の苺をミランダに差し出していた。
「はい、ミランダ! この苺、すごく甘いのよ。あーんして!」
「んぐっ……! や、やめてよ! 子供扱いしないで!」
(なんで餌付けされてるのよ私! これじゃ「断罪イベント」も「逆転劇」も起きないじゃない!)
ミランダは混乱していた。
彼女は前世の記憶があるからこそ焦っていた。「ヒロイン」として幸せになるルートを探さなければ、自分の転生には意味がないと思い込んでいたのだ。
とは言え、ゲームでは良かったが、現実には攻略対象の王子やら宰相子息やらはリスクが高すぎて手を出すのが怖い。
程よく狙い目なのが地味なフェリクス(俺)だった、というところだろう。
それからというもの、二人は頻繁に会うようになった。
リリアナ曰く「ヒロイン育成計画(ミランダを幸せにして自分は婚約破棄される作戦)」だ。
ある日、ミランダは意を決して、ゲーム知識を使った「フラグ立て」を試みた。
わざとフェリクス(俺)の前でハンカチを落とし、それをきっかけに好感度を上げていく作戦だ。
ハラリ、とハンカチが落ちる。
しかし、地面に落ちる前に、リリアナがスライディングでキャッチした。
「危ないミランダ! 大事なハンカチが汚れるところだったわ!」
「……っ! 余計なことしないでよ!」
ミランダは叫んだ。
リリアナは、ハッとした顔で固まった。
(しまった、これ、フラグだった…!折ってしまった!)
「なんで貴女はそうなの!? 私をいじめなさいよ! じゃないと、私は『悲劇のヒロイン』になれないじゃない!」
それは、彼女の悲痛な叫びだった。
シナリオ通りにいかない現実に、彼女は怯えていた。誰も私を選んでくれない。私はこの世界で独りぼっちだ。
リリアナは慌てつつ、それからミランダの手をギュッと握った。
「悲劇なんて似合わないわよ」
「え?」
「だってミランダが笑うと、周りがパッと明るくなるもの。貴女は悲劇じゃなくて、『最高にハッピーなヒロイン』になるべきよ!」
リリアナの瞳には、打算もシナリオもなかった。
ただ、目の前の友人を肯定する光だけがあった。
ミランダの胸の奥が、じんわりと熱くなる。
(……なによ、こいつ。調子が狂うじゃない)
そんなある日、ミランダに新しい出会いがあった。
新興貴族の三男、ゲイル。
「ミランダ嬢。君は運命の人だ」
甘い言葉。整った顔立ち。
ミランダの脳内データベースが反応した。
(ゲイル……! 確か、ファンディスクで追加された『隠し攻略対象』だったはず! フェリクス様ルートがダメでも、彼ならハッピーエンドにいけるかも!)
彼女は縋り付いた。
この「正規ルート」に乗れば、きっと幸せになれる。孤独から救われる。
しかし、リリアナが待ったをかけた。
「待ってミランダ! その男、絶対にやめた方がいいわ!」
「なによ! 貴女には関係ないでしょ!?」
「関係あるわ! だって私の『モブレーダー』がビンビン反応してるの!」
「……はぁ? モブ?」
リリアナは真剣な顔で鼻をひくつかせた。
「あいつからは、キラキラした攻略対象のオーラじゃなくて……『借金』と『裏切り』と『三流モブ』の湿った臭いがするのよ!」
リリアナの野生の勘は、百発百中で「ヤバい奴」を嗅ぎ分ける能力だ。
実際、俺の調査でも、ゲイルは借金まみれの結婚詐欺師だと判明していた。
だが、シナリオを盲信するミランダは聞かない。
「うるさい! 貴女の勘なんて当てにならないわ! 彼は『隠しキャラ』なの! 運命の人なのよ!」
彼女はリリアナの手を振り払い、ゲイルとの婚約パーティーへ向かってしまった。
パーティー会場の庭園。
ミランダは、ゲイルに婚約のサインを迫られていた。
「さあ、早く書けよ。愛してるんだろ?」
ゲイルの目が笑っていない。
ミランダは震えた。
(おかしい……スチルだと、彼はもっと優しいはずなのに。……怖い)
「……やっぱり、やめます」
ミランダが拒絶した瞬間、ゲイルが豹変した。
「あぁ? ふざけんなよ! こっちは借金で首が回らねえんだよ!」
ゲイルがミランダの腕を乱暴に掴み上げる。
「痛っ……!」
ああ、やっぱり。現実はゲームじゃない。
隠しルートなんてなかった。私は「特別」なんかじゃなくて、ただの騙されやすい女の子だったんだ。
絶望で涙が滲む。
その時。
バシャッ!!
赤い液体が、ゲイルの顔面にぶちまけられた。
トマトジュースだ。
「な、なんだぁ!?」
「あら、ごめんなさい。手が滑りましたわ」
仁王立ちしていたのは、真っ赤なドレスのリリアナだった。
「リ、リリアナ……?」
「遅くなってごめんね、ミランダ!」
リリアナはミランダを背に庇い、ゲイルを睨みつけた。
「よくも私の大事な『友達』を傷つけたわね。この三流モブが!」
「モブだと? さっきからよく分からない言葉を……」
「黙りなさい! 私のモブレーダーに狂いはないわ! あんたからは『愛』じゃなくて『小銭』の臭いしかしないのよ!」
リリアナが叫ぶ。
それはゲームの設定も、シナリオも吹き飛ばす、本能からの叫びだった。
「ふざけるな! 女だからって……」
ゲイルが襲いかかろうとした瞬間、俺が一歩前に出て、その手首をねじ上げた。
「……すまないな。うちの婚約者の『鼻』は優秀なんだ。彼女たちの『友情イベント』を邪魔するなら、退場してもらおうか」
俺の合図で衛兵たちが現れる。ゲイルは「ひぃぃ!」と悲鳴を上げて連行されていった。
騒動が去った庭園で、ミランダはへたり込んでいた。
「……バカみたい」
彼女は涙を拭いながら呟いた。
「私、ずっと焦ってた。ヒロインとして成功しなきゃって。シナリオ通りの幸せを探さなきゃって」
リリアナが、汚れたドレスも気にせず、ミランダの隣にしゃがみ込んだ。
そして、自分のハンカチで彼女の涙を拭いた。
「シナリオなんてどうでもいいじゃない」
「え?」
「だって、一緒にケーキを食べたら美味しいし、お買い物したら楽しいし。……私、ミランダのことが好きなのよ。それが一番の『正解』でしょう?」
リリアナの言葉は、あまりにも単純で、あまりにも温かかった。
ミランダの目から、堰を切ったように涙が溢れた。
彼女はずっと探していた。王子様でも、隠しキャラでもない。
ただの「ミランダ」として、隣にいてくれる人を。
それが、まさか一番憎んでいたはずのライバルだったなんて。
ミランダは泣きじゃくりながら、リリアナに抱きついた。
リリアナは「よしよし」と、不器用に彼女の背中を撫でた。
「私が探していた『トゥルーエンド』は、恋愛ルートじゃなくて、貴女との友情ルートだったみたいね」
しばらくして。泣き止んだミランダは立ち上がった。
その顔は、もうシナリオに縛られたヒロインではない。清々しい笑顔だった。
「フェリクス様。……貴方は『メインヒーロー』の座を降ろしてあげます」
ミランダは俺に向かって、悪戯っぽく舌を出した。
「その代わり、リリアナを泣かせたら、私が奪いに行きますからね? 私たち、攻略対象より強い『親友』になりましたから」
「……ああ、肝に銘じておくよ」
ミランダは背を向け、軽やかに歩き出した。
「さあリリアナ! お茶しに行くわよ! 助けてくれたお礼に、今日は私が奢ってあげる!」
「ええっ、本当!? やったぁ! ケーキ3つ食べていい?」
「……太るわよ?」
シナリオは崩壊した。
でも、その瓦礫の上で笑い合う二人の姿は、どんなハッピーエンドよりも輝いて見えた。
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「しかし、お互いに転生者だと、なんで気がつかないのかな?」
そう、2人はさんざん「ヒロイン」「モブ」「攻略対象」など口にしているのに、相手も転生者だと気がついていないのだ。
お互いに転生者だと気がつくまで、あと半年。。。。
温泉地にて
リリアナ「ばばんがばんばんばん♪」
ミランダ「あーイヤイヤ」
リリアナ「ばばんがばんばんばん♪」
ミランダ「あーイヤイヤ」
友達「お二人は本当に仲がよろしいのですね。なんという歌なのですか?」
「…?」「…?」
「!!!!」「!!!!」←ここで気づいた。
フェリクスはリリアナからゲームのストーリーを聞いているので、メタ発言というかメタ思考を持っています。




