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会議の終わり:コレッタの場合

大陸の果てに位置する魔王城。その最上階に位置する漆黒の間に集まった"死天王"たちの会議は長時間に及んだ。

魔王軍の最高幹部たちがいったいどのような会話を繰り広げているのか、その内容は配下たちには一切明かされない。

死天王の側近やその配下たちが固唾をのんで見守る中……実に三時間以上の時を経て、漆黒の間がついに開かれた!


「はぁー……おわったおわった……」


最初に漆黒の間から姿を現したのは、死天王の一人【"陶酔"のコレッタ】である。

コレッタがコキコキ肩を鳴らしながら階段を降りてくると、彼女の直属の配下たちが迅速にその御許に集まってくる。


「お疲れ様でございました。我が主、コレッタ様」


彼女の側近であるリューシが跪き、それに倣うように十数体のヴァンパイアたちが頭を垂れる。

コレッタは面倒くさそうに「ん」とだけ返事をして、つかつかと魔王城の出口へと向かっていく。配下の魔物たちも、数歩下がってそれについていくのだった。


「して、コレッタ様。私どもに何かご命令は」

「へ? 命令?」

「死天王の皆様でなにかお取決めになったのでしょう? 件の"勇者"の処遇について」

「……あー」


コレッタ自身、今日は勇者への対策協議が行われるのだと勘違いしていた。

しかし実際にはデュラルの温泉旅行土産が配られる会で、三時間にも及んだ会議では中身のない会話しかしていなかった。


「会議に入る前におっしゃっていたではありませんか。いつでも勇者のもとへ向かえるよう、戦闘準備を整えて命令を待てと」

「え? あー……そういえば、言ったっけ……」


言っていた。てっきり勇者との全面戦争が始まると思っていたコレッタは、部下の前で「時が来たっすね……」「待っているがいい、人類よ」とほざいたりもしていた。

側近たちを集めて「さぁ、戦争の時間っすよ」などと宣言した半日前の自分を思い出し、コレッタは耳を赤くした。


「どうされたのですかコレッタ様! 美しいお顔が鮮血の如く真っ赤です!」

「あー……ほら、勇者への怒り? みたいなアレでつい、ね……」

「な、なるほど……! 激怒のあまり顔が赤くなってしまった……というわけですか」

「そうそう、そんな感じっす」


リューシがぽろりと涙をこぼし「ご戦友であるマルラ様のためにそれほどの怒りを……! 我が主はなんと仲間思いでいらっしゃるのか……!」と感動を口にする。

他のヴァンパイアたちも「さすがはコレッタ様」「慈悲深き王よ」「怒った顔もかわいい」などと口々にコレッタを褒めそやす。


コレッタはヴァンパイアロードである。その名の通り、彼女はこの世のすべての吸血鬼の頂点に立つ魔物なのだ。

ゆえに彼女を取り巻く側近たちも、一人残らずヴァンパイア族で構成されている。そしてそのすべてがコレッタに吸血された"眷属"となっている。

眷属化されたヴァンパイアにとって主は絶対的な存在。誰一人としてコレッタに逆らう者はいない。あえて悪い言い方をすると、彼女の周りには究極のイエスマンしかいないのである。


「して、会議ではどのようなことをお取決めになったのですか?」

「まぁ……勇者とかその辺についていろいろと……?」


部下の手前、コレッタが言葉を濁す。

お盆の親戚の集まりかってくらい中身のない話しかしていないので、何をどう伝えたものかと思案する。

しかしその無言の間に、リューシは勝手な解釈を挟み込んでくる。


「やはり全面戦争ですか……! お任せくださいコレッタ様! 我々眷属一同、人間界を滅ぼす準備はできております! いつでもご命令を!!」


リューシ以下、眷属のヴァンパイアたちはやる気に満ち溢れていた。

しかしコレッタは困り果てている。たしかに「戦闘準備をしておけ」と言ったのは自分なので、今さら「勘違いでした」とは言いにくいのだ。


デュラルは「勇者のことは放っておけ」と言っていた。マルラも復活するから放置していてかまわないらしい。

そんな中、コレッタだけが先走って人間界に攻め込むというわけにもいかなかった。


「……あまり先走るな、リューシ」


コレッタは威厳を込めてリューシを制した。その威圧感に気圧され、ヴァンパイアたちが一斉に膝をつく。

この場にデュラルがいたら「先走ったのはコレッタじゃない?」などと嫌味を言われそうだが、幸い見られていなかったのでコレッタは威厳を崩さずに済んだ。


「……勇者はしばらく泳がせておくことになったっす」

「なッ……!? いったいどうして!?」


そういえば、どうして勇者問題をとっとと片づけてしまわないのだろう。コレッタはそんなことを思ったが、聞きに戻るのも面倒なので放置することにした。

とりあえず部下たちをうまくごまかしたい。今のコレッタにあるのはそんな想いだけだ。コレッタはとりあえずニッと意味深に笑って、部下たちに告げた。


「強い敵がいるほうが面白い、でしょ?」


適当ぶっこいただけである。しかしコレッタのその言葉と笑顔が、眷属たちの胸を貫いた。

リューシは目をハートマークにしてへなへなと倒れ、他のヴァンパイアたちからは歓声が上がる。


「さすがは我が主ィィィィ!!!」

「強者の理論! 死天王ばんざい!!!」

「かわいいよコレッタ様さすかわ!!!!」

「コーレッタ!! コーレッタ!!」


そんな声援を背に受けて、コレッタは「なんとかごまかせてよかった……」と胸をなでおろす。

コレッタを褒め称える眷属たちの姿は、魔王軍の幹部とその配下というより、アイドルと熱狂的なファンの姿のそれであった。

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